◎完全型人形劇で終わらせない


則清/掌編


 恋をすると、ひとは綺麗になるらしい。

「坊主はずっと綺麗だろう」
「綺麗じゃなくてカワイイの」
「そうかそうか、かわいいな」
「心がこもってない。やり直し」
「手厳しいな」
 うははと則宗が笑うので、加州は別に構いやしないんだよねと爪紅の固まり具合を確認した。きちんと乾いて固まっている。道具を仕舞っていると、邪魔するよと歌仙が手芸部屋にやって来た。
「余った毛糸か端切れはあるかな? おや、一文字則宗、まだここにいたのかい」
「やあやあ」
「ちょっとジジイ退いて、そこの棚を開きたいんだけど」
「おお此処か」
 どっこらせと則宗が退くと、戸棚を開く。加州はあったよと色とりどりの端切れと中途半端に余った毛糸を出した。
 歌仙は卓に着くと、ふむと厳選し始める。
「何か作るのかい」
「主が新しいぬいぐるみを姪っ子にあげたいが、外套の類でも着せて渡したいと言ってね。僕が名乗りを上げたわけさ」
「ふむ?」
「主、相変わらず贈り物好きだね」
「そうだね。人間らしくていいことだ」
「どっちかというと金持ちの道楽に見えるんだがなあ」
「贈る相手はきちんと選んでいるよ」
「ジジイも誉が貯まったら贈り物されるから覚悟しておきなよ」
「何だ、何かくれるのかい。そんなものより戦に出してくれればいいんだが」
「だーかーら、覚悟しておきなっての」
「戦場だけが僕らの住処じゃないってことさ。一文字則宗も思い知らされるよ」
「そうかい」
 じゃあこの布地と毛糸を貰っていこう。歌仙はそう言って、ゆったりと手芸部屋から出て行った。

 加州は布地の束と毛糸の山をせっせと元に戻す。則宗は、戦場だけじゃないとしてなあと小首をかしげた。
「どこまでいっても刀は刀だ」
「そうだよ。でも、俺たちは肉の器を得た」
 だからね、加州は笑う。
「俺はずっとずっと可愛くなって、主のいちばんであり続けるんだから」
「そうかい」
「ジジイは精々生きる理由にでもなってれば」
「手厳しいな」
 充分だろうに。則宗は不思議そうに加州を眺めていた。



07/04 22:02
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