◎梅雨
さみくも
じわりとした空気。水分を多分に含んだそれは肌にまとわりついて、まるで水のカーテンに包まれたようだ。
「雨さん、どうして雨が降るの」
ふと聞けば、恵みのためですよと返される。
「全ての生命の恵みのために、雨はあります」
「そうなの?」
「はい。命は水無くして生きられません」
そしてこれは個人的な感想ですが、と五月雨は微笑んだ。
「雨は風情があると思いませんか」
しとしと、じゅわり村雲はぱっと視界が広がった気がした。
あ、と溢す。とろりと言葉が溶ける。村雲はこの感情の発露の、表現方法が分からない。
「朝露みたい」
辛うじて出た言葉に、五月雨は嘲笑うことなく、優しく受け止める。
「ええ、とても瑞々しいですね」
雨と湿気と水のカーテンは、村雲のこころと記憶に、また一つ、確かな五月雨を刻み込んだ。
06/23 23:16