◎かたわれどき


さみくも


 かたわれどきに。

 西日が眩しい。村雲はむくりと起き上がった。あつい。ぼやく。
「雲さん、おはようございます」
「あ、雨さん。おはよう」
 五月雨は読んでいた書物を文机に置いて、飲み物でもいただきに行きましょうかと村雲に手を差し伸べた。村雲は、それはいいねとその手を取る。
「何があるかなあ」
「柑橘類の果実水があると噂に聞きましたよ」
「鯰尾くんたちから?」
「はい。雲さんが寝ていたので、起きたら貰いに行くといい、と。たっぷり用意されているので、無くなりはしないだろうからとも言われましたね」
「へえ、そうなんだ」
 村雲は、どんな飲み物かなと起きたてのあやふやな思考で考えていた。五月雨はそんな村雲の手をしっかりと掴みながら、厨に向かう。
 厨番の燭台切はすぐに飲み物を用意してくれた。檸檬の果実水らしい。檸檬のお菓子も作ったのだと、クッキーを分けてくれた。
 檸檬色のアイシングクッキーに、器用なものだと、村雲は感心した。五月雨も良いものですねと微笑んでいる。季語になるのかもしれない。
「部屋に行く?」
「東屋が空いてるようですよ」
「じゃあそっちに行こう」
「はい。では、手を」
「うん」
 村雲を導く五月雨の手に、村雲はこころがむず痒くなる。ああ、このひとが好きだな。改めて思うのだ。

 時はかたわれどき。夕暮れの、境界線が曖昧な時間に、五月雨に付いていけるのは、彼を信頼しているに、他ならない。
「ねえ、雨さん」
 明日もこうして俺を導いてね。そう言うと、五月雨は振り返って言うのだ。
「勿論です」
 と。



06/22 20:36
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