◎不安なんだよ、わたしとあなた


うぐしし


 秋桜の庭。咲き乱れる花たちは白と桃色の衣を見せつけてくる。けれどそれは嫌味じゃない。
「もしこれが薔薇だったらけばけばしいのだろうか。」
「思ってもねえこと言うなよ。」
「薔薇は薔薇でいい花だからな。」
 ほら見てみろと鶯丸は笑う。その手には一輪の薔薇があり、あまりに場に不釣り合いなそれに呆れてしまう。鶯丸は一体どこからその一輪の赤い薔薇を拾ってきたのか。何、拾い物をする時と同じだと鶯丸は得意気だ。それにどう応じるべきかと少しだけ考えている間に鶯丸は歩き始める。慌ててついて行けば隣に並んだ俺を見てにこりと笑う。その笑顔が愛おしいと叫んでいるので俺はそっと目を逸らしてしまう。
 面と向かって言われるのは恥ずかしいけれど、こうやって雰囲気で伝えられるのも恥ずかしい。俺だって好きだよと言えたらどれだけいいことだろう。そしたら俺にも少しは可愛げがあったかもしれないな、なんて考えた。
 でもそんなこと鶯丸には関係ないのだろう。今だって秋桜畑のうちのあちらこちらの個々を見てはやあ綺麗だななんて話しかけている。ちょっと燭台切みたいだ。そういえば、燭台切が野菜に話しかける様子に新入りとかは吃驚するみたいだけど、俺は特に気にしなかった。これでも生まれが平安のじじいだからだろうか。
「獅子王。」
「なんだよ、鶯丸さん。」
 突然立ち止まって名前を呼ぶ鶯丸に、同じように立ち止まって返事をすれば鶯丸はしばらく黙り込んでそれからその口を開く。
「考え事か。」
 その咎めるみたいな言葉と相反するような拗ねた声色に、俺は笑って、それから鶯丸が不機嫌になる前に好きだよと口から零した。
(あ、なんだ。)
 好きだって伝えられたじゃないか。
 熱くなる頬にぱたぱたと手を振って風を送っていれば、嬉しそうな鶯丸が俺の髪に一輪の赤薔薇を飾り付けてきた。俺はその花から漂う濃密な鶯丸の神気に、嗚呼この人も慣れないことをしてくれたと嬉しくなったのだった。



11/03 18:53
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