◎かっこいい
さみくも
よくできた物語みたいな話。
村雲は五月雨を目で追う。飛んで、跳ねて、隙を狙う。武道場で、五月雨は対する豊前から目を逸らさない。練度の差は歴然。五月雨は圧倒的不利の中で、食らいつく。
かっこいいな。村雲は思う。汗を滲ませて、それでも走る五月雨が、格好良い。ああいう刀剣男士が好かれるのだろう。村雲はぼんやりと思う。
「おや、村雲や」
「あれ、三日月?」
どうしたの。村雲は目を丸くした。武道場になかなか来ない顔だからだ。
いや何と、三日月は微笑んだ。
「たまには体を動かせと言われてな」
「まだ修行が解禁されて無いもんね」
「上限に至ってからもう長い。俺としても、戦の勘が鈍っているのやもしれんと思ってな」
「そう」
それは大変だ。村雲は他人事のように言う。三日月は気にせず、相変わらずだなあと笑っていた。
「五月雨と豊前か」
「うん。なかなかいい勝負でしょ」
「うむ。よく食らいついている」
「だよね。はあ、格好良いな」
「村雲にとってはどんな五月雨でも格好良いだろうに」
「そりゃそうだよ。雨さんはいつだって格好いいもん」
打ち合いが終わる。一礼した二口に、次は俺の番かと、村雲は立ち上がったのだった。
06/18 21:41