◎心なるもの


さみくも


 この命は審神者たる頭のもの。
 この体は審神者たる頭のもの。
 この刃は審神者たる頭のもの。

 ならば、この心は。

「心は囚われることがありません」
「真なる意味において?」
「はい、そうです」
 五月雨はすいすいとさやえんどうの筋取りをしながら言う。村雲は、覚束ない手付きでそれを手伝いながら、ううむと眉を寄せた。
「心は自分ですら操れるものじゃない、から?」
「ええ、そうですとも」
 心とは、最も不自由だ。五月雨は次の籠に手を伸ばす。
「でも、頭は心は自由だって言ってたよ」
「頭にとってはそうなのでしょう」
「んん?」
 村雲はコテンと首を傾げた。さやえんどうが、手から滑り落ちそうになって、慌てて掴む。
「暑いね」
「まだ夏でもないのに、ですね」
「うん。やだなあ」
 ところで、心とは。
「心ってなんだろ」
「精神とも言いますね」
「俺たちにもあるの?」
「人が持つものですから、人を模した私達に有ってもおかしくはありません」
「そっかあ」
 じわじわと汗が滲む。日陰だった縁側は、日が射し込んで来たようだった。
「雨が降ります」
「え?」
「風上に黒い雲が見えますから」
「そうなんだ」
 村雲は空を見上げた。分からないが、たしかに黒っぽい雲があった。
「あれが雨を降らすの?」
「ええ、そうです」
「雨はやだなあ」
「雲さんは立派に心を持ってますね」
「そうなの?」
「はい」
 分かんない。村雲が視線を手元に戻す。さやえんどうは新鮮で、鮮やかに青々しかった。

「夏は嵐の後に来るでしょう」

 楽しみですね。五月雨は笑う。じゃあ楽しみかも。村雲はころりと手のひらを返したのだった。



06/17 11:48
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