◎お菓子みたいな恋をしたい※則清前提沖田組/習作


則清/掌編/則清前提沖田組/習作


 お菓子みたいな恋をしたい。

 主がいつも言っている。お菓子みたいな恋がしたいね。そうほころぶように笑うから、加州は、恋とはそういうものかと思った。人が思う恋とは、そういうものか、と。

 だから則宗に初めて合った時、衝撃を受けた時、これは恋ではないと思った。

「いや、恋でしょ」
 大和守が煎餅をボリボリと齧りながら言う。
「違うってば」
「だってあの刀を見ると、内臓がどきどきするんでしょ」
「違う。むかつくの」
「ムカついてるようには聞こえないけど」
「安定だってむかつくでしょ」
「僕は別に興味無い」
「嘘つき」
「知ってる」
 あのさあと、大和守は首を傾げる。
「どうしてそんなに否定するのさ」
「だって、恋ってお菓子みたいなんでしょ」
「ああ、主の口癖ね。まあ、しょっぱかったり、辛いお菓子もあるじゃん。この塩煎餅とか」
「それはそうだけど」
 ぐぬぬと加州は眉を寄せる。これを恋とは認めたくない。だって、恋はお菓子みたいな、幸せなものだろう。
 加州から見て、則宗は幸せなものからは遠い。加州の自我と自信と定義を揺るがすだけの刀でありながら、加州を認める彼のこと。どうしてこれを恋と言えよう。
 ああでも。
「愛ならあるよ」
 ふと、思う。大和守はボリ、ガリと煎餅の最後の一欠片を食べ終えた。
「あい?」
「うん」
「それなら恋もあるんじゃないの? 恋愛感情って言うじゃん」
「恋はない」
「ええ?」
 訳分かんない。大和守は食べ終えた煎餅の器をそっと退けた。くたりと机に凭れ掛かる。
「清光はいつか分かるの?」
「何を」
「恋ってやつ」
「分かんないよ」
 俺はずっと分からないから、だから、主と一緒にいられるんだ、と。

「時間の問題だと思うけどなあ」
 大和守はのんびりと言ったのだった。



05/26 17:16
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