▼ うみにしずむたいよう
Mar 30, 2023(Thu.) 15:39
いちしし/相思相愛


 海に沈む。
 海中都市。そんな単語が脳裏に浮かぶ。弟たちが見ていた美しい絵本に、そんな海中が描かれていた。海の中に築かれたその都市は魚達の楽園なのだそうだ。
「発想の起点はおそらく沈没した船か、テトラポットだろうな」
 薬研がそう言って笑っていた。海に沈んだ人工物は小魚の良い隠れ場所になるのだと。

 ならば、貴方も海中都市が好きなのですか。そんな風にきんいろの貴方に聞けば、目を丸くして瞬きをした。
「え、何の話? 」
 獅子王殿はそう言って皮だけになったスイカのひと切れを皿に置いた。私はそんな彼の口元を手ぬぐいで拭った。ちなみに私はスイカを食べて無いが、彼にスイカを運んだのは私だった。
 獅子王殿はされるがままになっていたが、やがて私の手が離れると首を傾げて、海中都市かあと考えていた。
「そういや短刀達がそんな絵本を持ってたな」
「そう、その話です」
「うーん」
 俺は刀だからなと獅子王殿は困り顔だ。錆びますかと言えば、そりゃそうだろと言った。夢が無い、のだろうか。しかし今の私たちが海に沈むなんてまずあり得ないから、夢物語なのだろうか。
「一期は海が好きなのか」
「いえ、そういう訳では」
「じゃあ、海中都市に住みたいのか」
 そう言われて、私は楽園ならばと頷いた。そして出来得るならば、貴方と共に沈みたかった。そんな事は言えないけれど。
「じゃあ、俺も住みたいかも」
 その言葉にハッとして彼の顔を見る。獅子王殿はにこにこと笑っていた。心を見透かされたのだろうかと思ったけれど、これはきっと違うのだろう。
 嗚呼、なんて愛らしいことか!
「ならば、一緒に沈みましょう」
 そう言って手の甲へと口付けを落とせば、彼はどこか誇らしげに笑っていた。



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