▼ 知り過ぎた青年と一途に求めた青年
Mar 29, 2022(Tue.) 10:07
スイミナ/マツ→ミナっぽい要素が含まれます


 君がこの世界に殺されるというのなら。
「僕が君に手を掛けよう」

………

 穏やかな春の陽気の中で私は静かに四本の足で立ち尽くしていた。そんな私の隣にはかつて私が恋い焦がれたスイクンが居た。
[どうした、ミナキ]
[なんでも、なんでもないんだ]
 首を振る私に、スイクンは静かに木の実を差し出してきた。私はそれを大人しく受け取って食す。
 私はかつて人間だったポケモンだ。かつての友に殺された私を、ホウオウはポケモンとして蘇らせた。私を真っ先に見つけてくれたのは恋い焦がれたスイクンで、スイクンと何度か会話をして、ようやく私はポケモンになったのだと実感した。スイクンは幼い私を守る為に奥深い森の水辺にしばらく定住しようと言ってくれた。それに私は甘えることにし、ポケモンとして生きるために様々なことを学んだ。自然の中で生きることは大変で、何より読書家であった私には本を読む機会があまりないことに苦痛を感じたのを覚えている。しかしそれはすこしのことで、殆どはこの新しい生活に馴染む為に、水の中で藻掻く猿のように努力をした。しかしそれは新しいことばかりで、楽しさすら感じた。
[そろそろ此処を離れよう]
[…旅立つのか?]
[我々はあまり一箇所に留まってはならない]
[そうか]
 揺れぬ水面で己の姿を確認する。やはりそれは見慣れぬポケモンだった。
[明日の明朝に旅立とう]
[ああ]
 スイクンが私を舐めて毛づくろいしてくれる。その揺り籠のような心地良さに私は浅い眠りについた。



知り過ぎた青年と一途に求めた青年
(なぜ、マツバは私を殺したのだろうか)
(でもそれも)
(もう、どうでも良いことだ)

マツバは千里眼でミナキが殺される運命と知り、見知らぬ誰かに殺されるならと、自分でミナキを殺すことにしたという話が冒頭部分。



- ナノ -