薬獅子/付き合ってません/12.2の獅子王の日を祝いたかった
優しいだけなの。
彼の子の腕の中、俺の腕。内番着を捲り上げてさわさわと触る子に、何してんだと問いかけたら、細いからと言われた。なので、そんなのお前こそだろうと呆れた。白衣を着た少年、の見た目をした付喪神、刀剣男士の薬研藤四郎その子。その薬研こそ折れそうなぐらい細くて白い肌をしている。濡れたような黒い髪だからだろうかなんて考えたのは、手を離そうとしない子を好きにさせようと思った俺の時間潰しだ。薬研は一度気になると自分の中で完結するまで突き詰めることが好きらしいから、まあこれぐらいなら好きにさせておこうという俺の優しさである。
壁を見るのに飽きて天井を見上げて染みの数を数えていると、ひたりと感触。腕に指とは違うものが当たる心地に俺がゆっくりと頭を動かして見ようとすると、ちくり、痛み。急いでそこを見れば薬研の顔がやけに俺の腕に近い。というか、吸い付いてる。
いや何してんのと突っ込もうとして、唇を離した薬研がやけに嬉しそうに子どもっぽく笑うものだから、唖然とするほかなかった。自分の白い腕に飾られた赤い花びらは嫌でも視界に入るし、満足そうで無邪気な笑顔を浮かべる薬研は見た事がないものだったし、俺はどうすれば上手く事が運ぶかと考えることにした。
とりあえずここから離れたい気持ちだが、そうすると後が怖い。一期か乱が通りかかってくれれば片がつくだろうか、そうは問屋が卸さないか。でもまあ不穏ではないから思考放棄してもいい気がするなんて考え始めた頃に、薬研が口を開いた。
「まーきんぐってこういう事だろうな。」
いや、多分違う。そう言おうとした俺の口は、やけに楽しそうな薬研を前に無意味な開閉しかできなかった。
(見た目で得をするとはこういう事か、なんて。)
そうして再び這わされる指に気がつきながらも、好きにさせたのは俺だからなあと思い当たって、ならばと思考放棄することに決めたのだった。