▼ やさしいうた
Mar 29, 2022(Tue.) 09:51
平愛


 夏が終わり、残暑残る頃。夜になると肌寒い。僕はそんな中を歩いていました。愛染はどこだろうとフラフラ探します。お風呂から上がって、ほかほかだった体は少し冷めてしまっていました。愛染は彼が好む居間や広間に居なくて、自室にも居ませんでした。僕は少し落胆しながら部屋に戻る。そういえば、僕は一人部屋です。愛染はいつか来る来派二人のためにと一人部屋で、僕はいつか来る厚の為に一人部屋。一人は寂しいのにと部屋の戸を開けば、中には赤いひと。
「あ、平野おかえり」
 僕の部屋、布団を敷いた上に愛染が座っていたのです。

 何してるんですかと動揺しながら問いかければ、平野を待ってたんだとへらり笑っていました。その笑顔が嬉しそうだから僕は何も言えずに部屋に入ってゆっくりと戸を閉めた。
 愛染は自室から持ってきた枕を抱きしめている。すぐ近くに座ってその手を優しく触れば、ぴくりと震えました。
「一緒に寝たいんだけど、いいか? 」
 おずおずと、不安そうに僕を見る彼は昼間の明るさがちっとも無くて、そんな彼を知るのは僕だけだと思うと、心がじんわりと熱くなるのを感じました。
「断ったらどこに行くんですか」
「どこにも行けねえよ」
 平野のそばがいいんだと僕の胸に擦り寄る愛染に、頬が緩む。愛しくて、愛しくて、彼の頬にそっと口付ける。愛染もまた、僕の頬に口付けました。
「一緒に寝ましょうか」
 そうして二人で布団の中に潜り込んで、電気を消した。いい加減、同室を申し出なければとは思うものの、こうしてたまに一緒に寝るのも嬉しいから少しだけもったいないような気がするのでした。



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