▼ おやすみ愛しいひと
Mar 29, 2022(Tue.) 09:49
薬愛/眠たい愛染さんとそれを愛でる薬研さんの話


 午後のまどろみ、赤い猫。

「やげん、かいもの……」
 場所は座敷。たまたまひと気の無いそこで、目を擦りながら薬研の白衣を掴んだ愛染の、その頭を薬研は笑いながら撫でた。眠たいのなら寝ちまえと穏やかに言う。その言葉に愛染は嫌だと言う様に頭を振った。
「まえからやくそく、してたじゃねーか」
「今の愛染は茶屋で寝ちまうだろ」
「ちゃや? 」
 備品の買い出しじゃないのかと眠そうな目で不思議そうにする愛染に、薬研は微笑んで彼のやわらかな頬を撫でた。
「行ってみたい場所があっただけだ。寄り道の逢い引きぐらいは大将も許してくれるだろ? 」
「あいびき……? 」
 眠気によって思考がまとまらないらしい愛染に、薬研はその頬を両手で包み込んで、顔を近づけ、コツンと額と額をひっつけた。愛染の黄色の目が眠気の中で戸惑いに揺れる。
「やげん、どうしたんだ? 」
 なんか近いとたどたどしく疑問点を述べるこどもに、薬研はにこりと笑みを浮かべた。
「いや、何でもないぜ」
 そうして愛染の唇に口付けを落とすと、愛染はぼうっとした様子で微かな声を漏らした。
「なに……」
「さあ、寝るか」
 俺の部屋で布団を敷こうと言った薬研に、愛染は目を擦りながらゆるく頷いたのだった。



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