▼ 知る人
Apr 1, 2021(Thu.) 17:41
ルリソニ


 世界中にひとつだけ、宝物があるとしたら。ソニアは思う。それこそが、ルリナだろうと。

 雑誌のページを捲る。ルリナとドラパルトを起用したアクセサリー広告が目に入る。キラリと妖しく光るそれに、そっと目が吸い寄せられる。
 すてき、だなあ。ソニアはくしゃりと笑う。

 こんなにも遠い人。こんなにも素敵な人が、恋人だなんて、勿体無い。ぐるぐると考える。
 きっと、ルリナにはもっとふさわしい人がいて、ソニアにもそれなりの人がいるのだろう。
 でも、出会ってしまった。時を重ねてしまった。眼と眼が合って、バトルをしなかった。
 それこそが、トレーナーを諦めたソニアと、戦い続けるルリナの答だ。
「何してるの?」
 トン、と置かれたミルクティーは、ソニアの好きな水色で。モーモーミルクたっぷりのそれに、また涙が溢れた。
 ルリナは焦ることなく、ソニアの目元をハンカチで押さえる。
「そんなに寂しいの?」
「寂しくない」
「悲しいの?」
「悲しくないよ」
 唯。
「つり合いたいと思って」
 そう言うと、ルリナは、何それとクスクス笑った。
「わたしが選んだのに?」
 つうっと、頬を褐色の指が滑る。それに、ぼっと頬が熱くなる。
「ずるい」
「ええ、そうね」
「わたし、ルリナが好きだよ」
「知ってるわ」
「ずるい」
「そればっかり」
「だって」
 ルリナは強いから、でも、知ってるから。
「どうしてルリナはそんなに立っていられるの」
 わたしはね、まだ怖いよ。そう呟くと、ルリナはにっこりと笑った。
「わたしだって怖い。でも、ソニアがいるなら、強くあれるわ」
 不思議なくらい。ルリナは歌うように言う。
「不思議なくらい、怖くなくなるの。ソニアにはね、そういう力があると思うわ」
「えー、なにそれ」
 そんなの無いよ。ソニアがティーカップを持つと、ルリナはそういうところよと笑っていた。



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