▼ 本音を言うと毒
Mar 25, 2021(Thu.) 18:20
ごこあき


「五虎退は秋田が好きなのか?」
「は、はい?」
 五虎退が聞き返す。お八つのせんべいを食べていた山鳥毛は、違うのかと、首を傾げている。小豆と謙信は、そういうことはじゅんをおってせつめいしておくれと、頭が痛そうにしていた。
「えっと、僕は秋田のことが?」
「好きなのかと」
「どうしてそんな話に……?」
「いや、普段から気になっていたんだが」
「普段から?!」
 なんてことだ。五虎退はぐるぐると目が回る心地がした。
 なんとか声を絞り出す。
「好きですよ、兄弟ですから」
「刀に兄弟も何もないだろう」
「福岡一文字はそうかもしれませんが」
「あわたぐちはかぞくっぽいのだ」
「まあ、五虎退のやさしいめはきになるけどね」
「や、優しい目?!」
 そんなに態度に表れていただろうか。五虎退は、あわあわと、頬に手を当てる。
「実際、そうなのだろう?」
「えっと、少し時間を、」
「というか、秋田いがいは、しってるとおもうんだぞ?」
「えっ」
「まあ、かたなには、ちのつながりは、ないからね」
「えっ、えっ!」
 そんなと、五虎退はポロポロと零す。
「僕、は、確かに秋田が好きですが」
「そうだな」
「でも、恋愛関係になりたいわけじゃなくて」
「そうなのか?」
「だって、秋田にとっては、僕はただの兄さんですから」
 泣きたくなるぐらい、事実だった。秋田にとって、五虎退は一口の兄でしかない。
 でも、と謙信は言う。
「でも、秋田は五虎退がいないとさびしそうだぞ?」
「え、」
「そうだね。だから、あせらずかんがえればいいとおもうよ」
「えっと……」
 そうなのだろうか。五虎退は眉を下げる。秋田のことは一等好きだ。だからこそ、気後れする。秋田は、いつだって日溜りのような刀だから。
「例えば、明日本丸が崩壊したとして」
 山鳥毛は淡々と言う。
「五虎退は秋田を助けに行くだろう」
 虎を退けた逸話よりも、もっと大きなこころを得たのだ。その勇気を、我らは歓迎しようと彼は言う。
「何も怖がることはない」
 五虎退は何より強い刃を得たのだ、と。



- ナノ -