▼ ひたむき
Mar 25, 2019(Mon.) 14:32
乱愛


「あなたの目の前に花束があります」
 乱の言葉に、漫画を読んでいた愛染が顔を上げる。
「え、なんだ? また占いか?」
「どんな花束ですか」
 さあ答えて。乱の手元には愛染が読んでいた漫画の次の巻がある。まさかネタバレじゃないだろうなと愛染は訝しみながらも、心理テストだとしたらと考えた。
「ひまわりがいい」
「どうして?」
 乱の空色の目が愛染を射抜く。目が鋭くて、迫力がある。美人の真顔って怖いなと愛染は思った。
「景趣で、ひまわり畑があっただろ」
「うん」
「すっげえ綺麗だったから、あれがいい」
 するすると答えれば、乱はキクや梅はだめなのかと問う。そのへんは花束には向かないだろと愛染は呆れた顔をした。
「キクもウメも目出度くて好きだけど、花束ならひまわりがいい」
「ふうん」
「で、突然何なんだよ」
 問いかけると、乱は漫画を差し出した。愛染がわけも分からず受け取ると、乱は立ち上がってスカートを綺麗に直してから、にこりと笑った。
「じゃああるじさんに景趣のこと頼んでくるね!」
「は?!」
 何言ってるんだと問われて、乱は笑みを深めた。
「ひまわりがいいんでしょ?」
「心理テストとか占いじゃないのか?!」
「うん。ボクが愛染に花を贈りたいの!」
 じゃあ良い子で待っててね。そう言って駆け出した乱を見て、そんなことで景趣を変える相談なんてすんなと、愛染は頬を染めて止めにかかったのだった。



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