こぎぶし/残酷な刀
願いを告げる。
夜中、山中、岩陰。枯葉を敷き詰めたそこに山伏国広は寝かされていた。山伏を連れ回した本人である小狐丸はそんな山伏の頭を撫でた。熱がある、と呟いた。
「あれだけ川に浮かんでいれば熱も出るじゃろう。」
自分が川に突き落として遊びまわった癖に、小狐丸はまるで他人事の様に告げる。しかし山伏は怒ることなく、気にすることなく、修行が足りないからだと微笑んだ。
「ほれ、これでも食え。」
差し出された果実を、山伏はすまないと謝罪してから口に含んだ。木苺の類であるそれはきっと貴重な栄養源だ。
朝になったら帰るぞと小狐丸は言う。その言葉に、山伏はカカカと笑った。
「逃避行の癖にか。」
山伏の言葉に、小狐丸は決まりが悪そうに目を逸らした。星空が岩の外に広がっていた。
「願うのなら、ついて行こう。」
そうして笑った山伏に、小狐丸は何も言わない。否、何も言えないでいた。その様子に、山伏は笑う。
「告げたいのなら、吐き出せばいい。」
拙僧は拾えないが、空の星が拾ってくれるだろう、と。
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水魚