▼ いのちの燃え尽きる匂い
Apr 1, 2016(Fri.) 18:50
いちあい


 ぱっぱら、ぱらぱら。
 火花が散る音がする。俺の足首を焼く音は鎖だ。縁であるそれを俺は放置している。
 あの刀のことだから、すぐに飽きると思ったのだ。飽きっぽいからではなく、近くに魅力的な刀が沢山いたからだ。愛らしくも頼もしい弟たちに囲まれ、見た目麗しい刀たちと会話をする。童話の王子様のようなその姿も合わさって、俺とは別の時空にいるかのような刀だと思っていた。
 俺は長く同じ刀派が顕現しなかったから、あの大家族のような粟田口派には世話になった。皆優しくて、気高い刀だから、憧れたし絆が羨ましかった。だけど、今の俺には蛍も明石もいるから、粟田口派にそこまで世話をしてもらう事はないのだ。
 友人付き合いとか、同じ本丸にいるからとか、同じ部隊だからとか。そういう理由で仲良くするのは分かるし、世話をし合うのも分かる。その辺りを拒否することはしないし、むしろ俺から積極的に話しかけている。
 だから、それら全てを無関係だと微笑んで足枷を付けたあの刀のことが分からなかった。

 執着されるのは初めてじゃない。ただの刀として、慈しんでくれた人たちがいた。愛されて、世話してくれて、話しかけてくれて。人間の愛はどこまでも心地良かった。そう考えると、刀の愛は人とは違うのだろうか。暗くてどろどろとした濁ったあの刀の愛は、いつ首を絞めようかと狙う捕食者のようだった。

 足首が焼ける音がする。そろそろ覆い隠すのが大変になってきたから、石切丸さんたちに気がつかれるだろう。その時、あの刀は何を言うのだろうか。その時に俺は、何と言えばいいのだろう。
「わっかんねえの。」
 そうしていつか終わる匂いに思いを馳せた。ただ、足首が熱かった。


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