◎爪@宮沢と中原


宮沢と中原/爪

 指先の爪が割れていた。
 気がついたのでどうしようかと思い、ハサミを探す。見つけたそれで切り落とそうとすると、待ってと言われた。振り返るとそこには宮沢サンが居て、ここは自室だったよなと確認する。机の上もベッドも何もかもが覚えにある通りの自室で、俺はどうしたのかと宮沢サンを見上げた。
 宮沢サンはちょっと待っていてと手にあったお盆を机に置いて部屋を出る。お盆の上には簡単な食事の用意が整っており、そういえば夕飯の時間だなと思う。仲間たちから頼まれた翻訳をしていたので気がつかなかった。
 宮沢サンはすぐに戻ってきて、手を出してと言った。素直に手を差し出せばそろりと宮沢サンの手が滑り、俺の割れた爪を撫でた。微かな痛みにぴくりと震えれば、痛くないから大丈夫と微笑まれた。
 俺の爪に爪ヤスリが走る。宮沢サンが丁寧に丁寧にしてくれるそれに痛みは無い。爪ヤスリなんてどうしたのだろうと思っていれば、あっという間に割れたそこが整えられていた。出来上がりかと思ってありがとうと手を戻そうとして宮沢サンの手に阻まれる。どうしたのかと聞けば、他の爪も見せてご覧と言われてしまう。これは参ったなと思いながら手を宮沢サンに預ければ、ひとつずつ丁寧にヤスリで整えられていく。女でもあるまいしと思うものの、正直ふとした拍子に自分の爪で引っ掻き傷を作るものだから何も言えない。今度爪ヤスリを買おうと決めると、出来たと手が離れる。視線を爪先に動かせば、綺麗に揃えられた爪達。これなら怪我もしないだろうと素直に礼を言えば、ぼくの好きでやったことだからと微笑まれる。けれどここまでやってもらったのだからともう一度礼を言えば、宮沢サンはならばと口を開く。
「今度、畑仕事を手伝ってくれないかな?」
 それが礼でいいのだと笑う宮沢サンに、ならばこき使ってくれよと笑った。


09/26 02:21
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