◎夢から覚めても君はいない


宮→中
タイトルは識別様からお借りしました


 遠い夢を見ていた。きみが笑って、隣に立っていた夢だった。きみはぼくの名を呼びながら駆け出して、白い花畑の中を走り回った。ぼくの名を呼んで、ぼくに笑いかけて、きみは白い花畑の中で楽しそうに、愛おしそうにぼくを見つめてくれた。

 夢から覚めた。目が覚めて、ぼくはぼんやりと隣に温もりを探す。いない。冷たいシーツだけがそこにはあった。
 ぼくと夢の中の彼、中原くんはぼくと恋仲ではない。あんな風に愛おしそうに見つめてくることはない。憧れの先生だと笑うだけだ。そのことを最初は戸惑ったけど、嬉しく思っていた。だけど、今ではその憧れが辛かった。ぼくが中原くんに恋をしてから、彼の目が苦手になった。好きだ。一言そう言えばいいのに、言えばきっと、離れていくと思うと、何も言えなかった。
 彼の純粋な憧れの眼差しに、ぼくは笑顔を浮かべて何でもない顔をして、平然と彼と話さなければならない。
 中原くん、中原中也くん。ぼくの恋する人、愛する人。
(ああ、とても悲しい)
 憧憬と愛情は違う。愛も恋も、彼は受け入れてくれないのだろう。それが、何より悲しかった。


08/03 23:18
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