◎ピアノの傍らで@シューベルトと中原


シューベルトと中原

 シューベルトの指が鍵盤を舞う。ぽろん、ぽろんと奏でられる音楽に中原は感嘆のため息を吐く。美しく優しい音色に、中原の緊張状態の心が解されて行く様だ。
 最後の鍵盤を押したシューベルトの手が宙に浮く。そしてにこりと笑んで中原に語りかける。
「中原さん、最近お疲れのようでしたのでこの曲にしてみました」
 中原はその言葉に充分だと返して続ける。
「有り難う。リラックス出来たぜ。矢っ張り音楽は良いな。人の心をこんなにも動かせる」
 穏やかな顔で言う中原に、シューベルトはでもと言う。
「中原さんが作る詩も、人の心を魅了して止みませんよ。実はボク、坂口さんから中原さんの詩をいくつか見せてもらったので」
「は、えっと、そうか。その可能性は全く考えてなかったなァ。」
 中原はそう言って少しだけ顔を俯かせる。その浮かない顔に、シューベルトはピアノの椅子から立ち上がり、楽譜を片付けながら言った。
「ボク、中原さんの詩ってとても好きです。優しくて、それでいて切なくて、とても心が惹かれて止まないんです」
「そう、か。有り難う、シューベルト。」
 中原は不恰好に笑うと、そうだと明るく言った。
「今度、シューベルトの作曲した音楽を沢山聴きたい。いいか?」
 その言葉にシューベルトは頬を染めて言った。
「とても嬉しいです。そうだ、それなら演奏会をしましょう。空いてる日を聞いても?」
「嗚呼、それなら」
 中原の出した日付に、シューベルトはその日にしましょうと弾んだ声で言った。


09/10 01:38
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