◎申告せよ


夏中


 目を閉じる。どうしたのかいと話しかけてくれる夏目さんを思い浮かべた。その目は柔らかい形をしているのに見透かすように鋭くて、俺はいつだって包み隠さずに全てを言ってしまうのだ。彼の人はそんな風に目の前の人を怖気させてしまうような魔力を持っていた。そんな思いをしてしまうのは悔しいと思う。俺は彼の人の隣に立ちたいのだ。前でも後ろでもなく、隣に立って同じ風景を見て、同じように微笑みたいのだ。
「中原君は私をいささか神聖視していないかい。」
 ふと掛けられた言葉に驚いて目を開けば手を少し動かせば触れてしまうほどの近くに夏目さんが居た。ひゅっと息を飲み込んで、夏目さんの優しいのに鋭い目から目を逸らしたくなる。夏目さんと目を合わせれば全てを話さなければならない気持ちになってしまうのに、その目から目を逸らせない。逸らすことを許されない。
「ほら、言ってみようか。」
 残酷だとか無情だとかそういうことに似ていて、違うもの。夏目さんは全てを知っているのだ。俺の心の奥の底に仕舞った思いまで知っているのだ。ひりつく喉を動かして、俺は晒す。
「すきです。」
 そう言えば夏目さんは嬉しそうに笑って良い子良い子と俺の頭を撫でたのだ。


12/02 04:33
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