◎メメント・モリを許さぬと


宮中/花が枯れる瞬間を見てしまった中原さんとその手を握った宮沢さん


 目の前でそれが枯れた。赤い花だったそれを眺める。かつて赤かった花弁は茶色味を帯び、茎もろともひしゃげてしまっていた。ふと左手に密やかな温もりが伝わってきて、見上げれば宮沢サンがいた。宮沢サンはただ花だったものを痛ましそうに眺めていて、俺はその目が何だか見ていられなかった。なのでまた花だったものに視線を戻す。かさかさと弱い風にゆれるそれはまだ水分が残っている部分もあるのだろう。根だってまだその役割のひとつを果たしていた。弱い風は俺の頬も撫でる。冷たい風だった。季節はもう冬になろうとしていた。花だったものの近くには茶色の葉が落ちていた。やがて花だったものも茶色の枯葉となるのだろう。それはまさしく終わりの姿形だ。
 ふと、握られた手が痛んだ。宮沢サンが強く握ったのだ。
「中原君は生きるんだよ。」
 見上げれば宮沢サンは俺を真っ直ぐに見ていた。それは恐らくついさっき振り向いたものではないと予感させる、強い目だった。射止め、乱暴に繋ぎ止めるかのような目は俺の喉を突き刺すようだった。己の頬に伝ったものは、その反射だったのだろう。


11/28 01:10
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