◎魚が呼吸することを祈ったんだよ


さこみつさこ/左右判断を諦めてリバ表記にしました/左近視点


 オレもアンタも呼吸が出来ぬ侭。
 三成様はこの不思議な世界で今日も穏やかに過ごしている。最近は戦闘に駆り出されることが少なく、体が鈍らないように鍛錬さえ済ませれば三成様の自由時間はとても増えていた。だからオレはそんな三成様に何か出来ないかと考え、町に出ていた。町人が行き交うそこでふらふらと周囲を見回しながら歩く。扇屋で扇を手に取ったが三成様が喜びそうな扇は無かった。風鈴屋を見たがそろそろ夏も終わりがけで気になるような風鈴はもう残っていない。菓子屋で生菓子を見たが三成様が好むものは丁度売り切れてしまっていた。
 ふらふらと大通りを歩いているとふと魚屋が目に入った。それは食用の魚を売っている店ではなく、観賞用の魚を売っているらしかった。店頭にならぶ赤い魚に目が引かれた。金魚だ。
 近寄ってまじまじと見つめる。赤とわずかな白を纏ったその金魚は狭い水槽内ながら悠々と泳いでいた。ふと、脳裏に幼い頃に水田で見かけためだかを思い出した。
 いうなれば、オレはめだかなのだ。群れをなす彼らの中の一匹の、小さなめだか。
 そっと水槽に触れる。金魚は慣れしているのか、驚いて騒ぐようなことはしなかった。そうだ、オレは三成様に金魚であってほしいのだ。限られた場所であっても悠々と、まるで自由であるかのようにあってほしいと。
 けれど三成様は金魚になることは望ましいのだろう。彼の人はむしろめだかにであり続けることを望んでいる。群れの中の一匹でありたいと、望んでいるのだ。

 魚屋から離れ、歩く。本当は分かっていた。オレがめだかであり、三成様はめだかであり続けることを望む。そしてそこに固着するオレ達は同じ群れの中にいてもグループが違い、決してそこから顔を出すことは無いのだ。
(それでもオレは呼吸がしたいと。)
 祈ることすら愚かだというのに。



魚→左近と三成
呼吸→愛を囁く
title by.恒星のルネ


11/04 00:14
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