◎愛されていた果実


宮中


 きみは知らない振りを決め込んでいた。知らないと自分は何も知らないのだと逃げていた。けれどぼくはそれをもう見過ごせやしないんだ。きみの決して華奢じゃない手首を握り、強く引き寄せて、耳に囁けば、きみは目を強く閉じて聞こえない振りをする。だけど、ぼくは前述通りに、もう見過ごしたりなんてしないから。
「愛してるよ、中原君」
 息を吐いて身を縮こませるきみをしっかりと抱き寄せて、きみの悩みは知っているから、ぼくはそれに向き合うことを決めているよ。
 果実はまだ青々としていることだって知っているんだ。
「やだ、やめてくれよ宮沢サン、俺は」
 震えながら頭を振るきみだけど、ぼくはこの手を離しやしないから。きみを待っていたらこの夢の世が覚めてしまうよ。否、ぼくは充分待ったさ。
「良い返事をくれないかな」
 きみの答えはひとつしか受け入れないからね。


10/16 01:17
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