◎穏やかな眠りを


宮中


 一歩ずつ、きみの元へと歩いて行く。紫の艶のある髪を揺らして、きみが笑うことを願いながら、ぼくはゆっくりと歩く。右手には籠。喜んでくれたら良いなと思う。
 きみの部屋の前に立ち、ノックをすれば返事がすぐに返ってくる。留守ではなかったことに安心して、扉を開くと、きみが振り返った。そしてぼくを確認すると黄色の目を見開いて驚いた。
「宮沢サン?!今日はあの子と探索に行ったんじゃ」
「うん行ったよ。丁度さっき帰ってきたところだね。」
 ぼくの言葉に休んでおくれよと慌てるきみ。優しい人だと思いながら、それならこれはどうだいと籠を持ち上げれば不思議そうなきみの顔。机に置いてそっと籠の蓋を開ければ、きみが吃驚して言う。
「サンドイッチと紅茶!どうしたんだこれ」
「どうしても中原君の部屋に行きたいと言ったら板垣さんが用意してくれたんだ。」
 微笑みながら言えば頬を赤らめるきみが居た。そして机の上にあった本を片付けて、部屋の隅にあったもうひとつの椅子を持ってくる。ぼくは机の上にサンドイッチやカップなどを籠から取り出し、ポットからカップに紅茶を注ぐ。準備が整うといただきますと二人で言って食べ始めた。
「板垣さん流石だな、美味い」
「それにしてもこの人数が住んでいるのに料理が出来る人が少ないよね。」
「他に出来るのは……」
 そんな風にポツポツ喋りながら食べていたらあっという間に食べ終える。紅茶を飲みながらさらにお喋りをすれば、ふわふわとした眠気がやって来た。そんなぼくにきみはすぐに気がついて、ベッドを整えるとぼくにそこで寝るように言った。その言葉に甘えてベッドに横になれば、そっと上掛け布団を掛けてくれる。
「宮沢サン」
 小さなその囁きに耳を傾ける。目はもう開けていられなかった。
「会いに来てくれて嬉しかった」
 穏やかな言葉に、ぼくこと会えて嬉しかったよと言おうとする。しかし強い睡魔に言葉を出せず、何とか小さな声を絞り出した。
「ぼくも、」
 きみが微笑んだような気がした。


10/07 17:11
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