◎なぞる夢


宮♀今♀


 なぞるように夢を見る。あの日の幸福を、あの日の絶望を。今吉はただ、夢を見た。

「おはよ」
 柔らかな声がする。今吉は目を開いた。眼前には金色の髪をした、美人がいる。宮地か。今吉はいつものように目を細めた。細い腕を、程よく筋肉のついた少女の手がなぞる。くすぐったい。今吉がふふと笑うと、宮地はそうしてるんだと笑った。
「性格悪いわあ」
「お前ほどじゃねえよ」
「ひっど」
「お前は綺麗だから、」
 余計にたちが悪いと。酷い。今吉はくすくす笑う。
「極上の美女に言われてもーた」
「俺は普通だ」
「自覚あるクセに」
「あんま認めたくねえんだけど」
「そうなん?」
 ワシはな、今吉は微笑む。
「宮地のぜーんぶ好きやで」
「……寝ぼけてるだろ」
「わはっ、バレた」
 でも、本当やで。今吉は言う。お前の言うことは信用ならねえよと宮地は目を細める。そのまま、きゅっと今吉の薄い体を抱きしめる。その躊躇のない行動に、キミらしくないわあと今吉はまた笑う。
「なあ宮地」
「なんだよ」
「ワシが好きでも、嫌いになっていいんやで」
 抱きしめる力が強くなった。
「そういうところが弱虫なんだ」
 絶対に嫌いにならない。宮地の言い分は至極真っ当にすら思えて、強い人だと今吉は安心する。そのメンタルは見習いたいものだ。今吉は肝心なところで、立ち止まるような癖がある、から。
「明日のメイク、俺にやらせて」
「じゃあ宮地の化粧はワシの担当やな」
 キマリ。そう言って、二人でシーツの海に溺れたのだった。

06/03 21:22
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