◎花の香りに酔う前に


宮♀今♀


 滑らかなる肢体の、向く先に花。

「今吉は迷わねえよな」
 宮地が言う。今吉の部屋で勉強会、今言うんと今吉は呆れた。
「宮地だって迷わんやろ」
「俺は別」
「うわあ」
「だって今吉は、分かってるだろ」
 相手のことも、その周囲のことも。全て分かった上で、迷わない。宮地は金色の髪を揺らして、今吉を見た。黒く艷やかな髪、切れ長の目、その目つきは悪くて、でもだからこそ、笑うと愛嬌があって好ましい。美しい少女が、そこにいた。
「あのなあ、買い被りすぎや」
 ワシだって、分からんよ。今吉は言う。
「ホントに全部分かっとったら、ワシは負けへんやろ」
「チームで負けたんだ」
「ワシが率いとったんやから、ワシの責任や」
 なあ宮地。今吉は笑う。
「本当に努力しとる人間ってな、珍しいんやで」
「うるせえ」
「ひどいわー」
 宮地は問題集に目線を戻した。今吉もまた、勉強を再開する。双方の手は、少しだけ軽かった。

03/12 18:47
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