◎優しいひと


笠♀今♀


 優しい人。今吉はいつも言う。そんなわけあるか。笠松は呆れた。
「優しいのはお前だろ」
「腹黒って言われてるやろ」
「充分優しい」
 ぴしゃりと言えば、今吉はそうやろかと首を傾げた。
 白くまろい肌。細められた目は笑顔に見える。長い髪の、結い上げられた、その輝き。
 綺麗で、優しい。それは表面上だけというけど、その表面上だけが、どれだけ救われることか。残酷だな。笠松は思う。
「笠松の方が優しいやろ」
「俺はそうだろうな」
「うわ、すごい自信」
「お前は存外悪烈じゃねえよ」
「そうなんかなあ」
 腑に落ちない様子の今吉は、ただの女の子だ。コート上の恐ろしさなど、少しも感じない。可愛い彼女、笠松はそっと手を伸ばす。髪に触れて、そっと撫でると気持ち良さそうに今吉は目を閉じた。
「優しい笠松が恋人で良かったわあ」
「俺も」
 どうせ、優しい同士なんだろうな。笠松は何度も彼女の頭を撫でたのだった。

01/09 10:08
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