◎可愛い子/すきなひと


宮♀今♀


 気のせいにすればいい。ワシが好きなことを、気が付かなければいい。少しでも色を見せたら、お終い。なんて健気だろう。なんちゃって。
「今吉はいつも難しいことを考えてんだよ」
 俺には分かんねえな。宮地がかりかりと指で頬を掻いた。そんなことしたら傷になるで。ワシは的外れなことを言う。可愛い人、なんて思ってることを気づかせてやらないから。
「軽トラで轢けたらいいのかよ」
「わっは、何それ」
「お前の考えてることがひとつも分かんねえってこと」
 俺はお前ほど頭が良くないからなんて、真面目なこと。可愛いこと。ああ、いいなあ。こんなふうに真っ直ぐにいられたらと、憧れすら募る。すき。が溢れて、こぼれて、落ちていく。
 ワシはずっとずっと、宮地が好き。ショートヘアの、背の高い、モデルさんみたいな女の子。王子様みたいなんて言われてるのに、実はアイドルが好きな女の子。
 いいなあ。好きだなあ。心の中でひっそりと呟く。宮地は、不審そうな顔をしていた。そういうところも、好ましいのだから、べた惚れだ。
「今吉はさあ」
「なに?」
「綺麗だよな」
 ずっとずっと綺麗だ。そんなの、宮地の方なのに、苦しそうに言うものだから、ワシはあれと首を傾げた。
「宮地は苦しいん?」
「そうだよ、サトリ」
「どうして?」
「わかってんだろ」
 俺の気持ちぐらい、全部分かってるくせに、なんて言われて。ワシはハッと目を開いた。え、嘘だ。いつだってワシはそんな色、見せなかったのに。
「好きだ」
 ずっとずっと好きだ。そう言われて、手を絡ませられて。ワシはぼっと頬が赤くなる。可愛いのは、宮地なのに!
「可愛いとこ、あんだな」
「アホちゃうか」
「いつもお前にしてやられてばっかだから、たまには驚かせてやるよ」
 宮地はにっこりと笑っていた。

11/11 17:43
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