∵ 嫌い 前に書いた鋭まり出てきたので。 鋭→まり→ノエ。 「そこまで傷付いて、其れは本当に恋なのか?」 そう真っ直ぐに問う鋭士に、マリィマリィは何も言えなかった。 恋で無いなら何だと云うのだ。其れに明確な答えが返ってくること等無いと知りながら、問わずにはいられなかった。 マリィマリィの問いに、鋭士は悲しそうな顔をして笑った。 街中で偶然ノエルを見付けたマリィマリィ。 声を掛けようとすれば、彼は見知らぬ派手な女と抱き合い始め、仲睦まじそうにしている。 余りのことに動けなくなり、放心状態でそのさまを見詰めているしか出来なかった。 すると、不意に此方を振り向いたノエルに気付かれる。 彼は驚きを素直に顔に表した。そして何も見ていないとでも云うようにマリィマリィから目を逸らした。 其れだけで十分だった。 「ワォ!マリィマリィちゃん!こんなとこで何して…」 「み、見ないで下さいまし!」 後ろから突如振って沸いた鋭士に条件反射で振り向いてから、そう叫んだ。 「一体どうし……あぁ」 鋭士の声が一段低くなった。マリィマリィは其れに身体をビクリと震わせた。 見たんだろうか。其処には恐らく未だ二人が居る筈だ… 「あいつ?」 「…!」 鋭士の言葉に分かり易いくらい反応してしまった。 此れでは今から否定してもバレバレではないか。 俯いているのできちんと見てはいないが、鋭士は先程二人がいた方向を指差している。 逡巡した後、やはり否定せずには居られなかった。 「ち…違いますわ」 「じゃあこんなとこでどうしたの。何で泣いてるの?」 「ノエ様のことじゃありませんったら!」 「誰がノエっちだなんて言ったんだよ」 「あ…」 自ら墓穴に入ってしまった。掘り放題ではないか。 思わず顔を上げると、鋭士が眉を顰めて此方を真っ直ぐ見ていた。 顔に浮ぶは、苦悶の表情。 「ど、どうして渋川様が其のような顔をなさるんですか…」 「マリィマリィちゃん」 そうして冒頭のように言われてしまうのだ。 「…なんで、」 どうして、 「渋川様の方が、辛そうなお顔をなさるんです…」 おかしいじゃない。 「マリィマリィちゃんが辛そうだからね。分けっこしようかなって」 「ふざけてるんですの?」 「至って真面目」 だからさ、と鋭士が続ける。 「笑ってよ。悲しそうな顔は似合わないよ」 「…ッ」 ずるい。 人の弱味に付け込んで、入り込んで、するりと私を懐柔しようとする。 渋川鋭士とは、人の心に入り込むのがとても上手い男なのだ。 ノエルとの取材の中で、彼の色々な人へのインタビュー記事を読んで、そう確信した。 「嫌い」 「いいよ。気が済むまで八つ当たりしなよ」 「嫌いだって言っているじゃありませんの…!」 「うん。其れで?」 「…嫌いですわ…」 「うん」 「嫌い…」 ノエ様を、取材対象と、一人のアーティストと、そう見れない私が嫌い。 2014/11/05 13:16 Wed comment (0)│小説と設定 |