∵ 「また逢おうね」と僕は何度も嘘をつく 祝賀行ってきました。 メジャーデビュー10周年本当におめでとうございます。 祝賀レポはまた次の記事にでも。 以下、鋭まり要素ありの祝賀&ヴァニスタネタの小説です。 ――まぁ、好きにはならねえけどな? 「……当ったり前だろッ!!!!」 「はっ!?」 「…あれ」 声のした方を見れば、其処には驚いた顔のマリィマリィ。 背景は見慣れた市蔵の風景だった。反対からノエルと山さんの話す声がする。前に視線を戻せば、ジャーマネのニノスケ君のお兄さんが訝しげな顔で此方を見ていた。 恥ずかしい、穴があったら掘りたい。そして即座に埋まりたい。 「あんな飲み方するからですわよ」 右からマリィマリィのお説教が聞こえた。そうだ、思い出してきた。 Revoっちの主宰するSound Horizonのメジャーデビュー10周年記念ファンクラブイベントである祝賀祭に、Revoっちの力を借りてノエルやニノスケ君だけでなく俺達も行かせて貰った。 そしてメジャーデビュー当日、10月27日の夜の公演――とどのつまり最終公演――が終わった後、俺達は元の世界に帰された。 ―Revoっちを、渋谷公会堂のある世界に残して。 ――今日から一年近く、いや、もしかしたら其れ以上、僕も新しい物語を紡ぐのに忙しくなる。今日までの経験を活かして、暫く一人で頑張ってみて。 ――グラサン。…いいや、Revoさん。 ――何、どうしたの。またそんな改まって。公演では僕を「黒い人」とかさんざ呼んでたクセに。 ――ありがとうございました。 茶化していたRevoっちに乗ることなく、真剣な表情でノエルはそう深々と頭を下げながら言った。 其れを見たRevoっちは一瞬驚いた顔をしたが、何も言わず唯微笑んで「面を上げよ」とまたふざけた。 しかしノエルは其れに怒ったりせず、ゆっくりと顔を上げた。目には涙が溜まっているように見えた。 解っていたんだ。 恐らく、プロデュースに、二度目は無いことを。 また、こうして会えるかなど解らないことを。 もうノエルは大丈夫だと云うことは、俺達が一番よく解っていたから。 ―そうして元の世界に帰って来た。 其処にRevoっちの姿は勿論、ノエル以外のVANISHING STARLIGHTのメンバーはいない。 何事も無かったかのように「ほら市蔵で初ライブ成功の打ち上げするぞ!」と笑顔で言ったノエルに誰が心痛まなかったと云うのだろう。 ――鋭士、マリィマリィ、山さん。僕達の世界へ連れて行く代わりに、一つ頼みがあるんだ。 Revoっちの世界へ連れて行って貰う前日、市蔵へ呼び出された俺達は其処にノエルの姿が無いことに疑問を抱いた。 Revoっちは開店前の市蔵を借りて、市蔵では出していない持参のワインを俺達に振舞った。 ――美味しいだろう?ロレーヌ、と云ってね、安価だけど上質な味わいのフランス産の良いワインなんだ。 聞いたことの無い銘柄だった。しかし凄く美味しいワインだった。此れならきっとノエっちも気に入るんじゃないだろうか。 ――唯の一記者である君達に、話す内容では無いのかもしれない。 ぽつり、良いワインに少し気分が良くなってきた頃、Revoっちがそう切り出した。 そうして先程の言葉を言う。彼は続ける。 ――ノエルの傍に、此れからもいてあげて欲しい。記者とアーティストでは無い。そうだな、敢えて関係に名を与えるとしたら…「友人」として。 其れは見たことの無い顔だった。とてもとても優しい表情だった。 母が子を慈しむかのような、暖かく…しかし哀しげな顔だった。 彼は多くを語らず、そうとだけ言って口を閉ざしてしまった。ノエルの取材を進める内に解ってきていたことがある。其れはRevoっちはいつでも先の先の先まで見ていること。 今度は何を見据えていたかは、一目瞭然だった。 ――どんな幸せな出逢いにも、別離の日はある。 ――「僕」と出逢ったことが、ノエルにとって幸せだったのか、不幸せだったのか、其れはMoiraのみぞ知ることだ。最期でなければ断言は出来ない。 其れでも僕と出逢えた此の地平を、あの地平を、愛してくれるなら、愛されていると、知って、そして忘れなければ…いつかまた繋がれる。 ――愚かな「僕」の願いだ。国民にも、君達にも、勿論ノエルにも、僕は幸せになって欲しい。 けれど、ノエルを幸せにする役目はきっと僕じゃないんだ。僕は雛を親鳥の手から離さなければいけない方の役目だ。其の先がたとえ地に堕ちる結末だとしても、僕はノエルならまた…そうあの歌詞が書けたノエルなら、よだかのように駆け上れると信じてる。 しかし地から救い上げる人間の手もあって良い筈なんだ。其れを、僕は君達に頼みたいんだ。ノエルに聞き、ノエルを見て、ノエルを知っている貴方達なら…… 其れはつまり、Revoっちは手を離せば、もう迎えには来ないと言っているのと差異は無かった。 巣から落ちた雛鳥を、人が助けてはいけない。助ければ親鳥は驚いて雛を迎えに来なくなる。 「鋭士さん?」 声に気付いてハッと顔を其方に向ければ、マリィマリィがぷぅとむくれた顔で俺を呼んでいた。最近変わった其の呼び方が妙にむず痒い。…自分で「変えろ」と言ったんだけど。 「どうした?」 「どうした?じゃありませんわよ!何度お呼びしたと思っているんですか!」 「メンゴメンゴ」 またそうやって!とぷりぷり怒るマリィマリィが可愛いなと思うのだから絆されているなと思った。 「何を考えていたんですの?」 怒っても無駄だと云うことに気付いたのか、諦めてそう聞いてきたマリィマリィに少しの間を置いてから、耳元に寄って小声で呟く。 「毬依のこと」 「…!」 顔を真っ赤にして、俺に平手打ちを浴びせたマリィマリィは本格的にそっぽを向いてしまった。 ノエルは驚いて俺達を見ていたが、やがて笑い出し「惚気るなら余所でやれよ」と茶化してきた。 ―大丈夫だろう。こうして俺等がちゃんと傍にいるなら。 「ところでノエっち」 「あ?」 「俺の毬依相手に「好きにならねえよ」とはどういう考えで言ったのかな」 「え?あ、あー…」 「ほーら飲め飲め!吐くまで飲ませるからなッ(笑)」 「ふざけんな…ッ、あ!零れた!」 大丈夫だ。だからRevoっち、また逢おうぜッ! 2014/10/28 15:53 Tue comment (0)│小説と設定 |