我が海常高校バスケ部が新設校である誠凜高校バスケ部に僅差で負けたのが1週間前の出来事
私はその日、
初めて負けた
という黄瀬くんの涙を見た瞬間、
恋に落ちました
でも、だからといって黄瀬くんに近づくわけでも、毎日応援に行くわけでもなく、ただただ、
次は勝ってほしい
そう願っていたのです
「気持ちいい…」
風がちょうどいい具合に当たる場所
滅多に人が来ない裏庭は静かに過ごすのには最適です
そっと目を閉じた直後、足に何かが当たって目を開けました
「…ボールだ」
そこにはバスケットボールが1つ転がっていて…
誰の?
そう考えながら拾えば聞こえてきたのは男子バスケ部の元気の良い声
あぁ、バスケ部のか…
思わず緩む口元を引き締めて体育館に向かって一歩踏み出す
「…あっ」
否、踏み出そうとした
後ろから聞こえた声に反応して足を止めて振り返れば、あの日から好きになった人−…
「清水さんが拾ってくれたんスか?ありがとうございますッ」
ニコニコと近づいてくる黄瀬くんに高鳴る心臓
「ど、うぞ…」
情けないくらい震えた声を出しながら黄瀬くんにボールを渡す
…と、少しの違和感
あれ?
さっき黄瀬くん、私の苗字言ってなかった…?
清水さんが拾ってくれたんスか?
思い出した言葉で確信しました
彼は確かに、私の名前を言っていたのです。
名乗ったことのない、私の名前を
「き、黄瀬くん…ッ」
ボールを受け取って体育館に戻ろうとしていた彼を呼び止めた
「名前…ッなんで、知ってるんですか…?」
必死に声を絞り出した私を見て、黄瀬くんは一瞬考えた表情をして再びに私に近づいてきました
「…ずっと見てたから」
「え?」
「入学した時からずっとさゆを見てたんスよ」
さりげなく名前を言い、キラキラした笑顔でこんなことを言われて顔に熱が集中しないわけがないのです
私の顔は、見事なまでに真っ赤に染まりました
「っ私も、見て、ました…ッ」
今までにないくらいの勇気
頑張って言った返事は
私と黄瀬くんの距離を、
いつの間にか0にしてくれました