再び辰巳に背負われながら目を閉じた直後、頭に浮かんできたのは、辰巳に対して初めて恐怖を抱いたあの日のことだった
「…はぁ、」
ようやく止まった涙を拭って足を止める
辰巳から離れてすぐ流れてきた涙はなかなか止まってくれなくて、気がついたら家からずいぶんと離れてしまっていた
「…お祭りなんてやってたんだ」
ふと目についた神社へ向かってふらふらと歩いていくと、猫が足元にすり寄ってきた
可愛いー…
手を差し出せば、嬉しそうに指をぺろ、て舐めた
「どこの猫ちゃんかな?」
…首輪がない。野良猫なんだ
「?」
猫を抱き上げてから、こちらをじっと見ている男の人に気づいた
「あの…?」
ちょっと警戒しながら近づくと、
「え!?」
急に手を握られた
え、何、何!?
「俺と付き合ってくれ」
「…はい?」
「まったく、何やってんすか、東条さん」
謎の告白から3分後
東条さんの友達である庄次さんが合流したことで、告白の意味が理解できた
「…紛らわしいんですよ、東条さん
動物に触りたいから協力してくれ、の一言で良かったじゃないですか」
動物に触れたいのに、なぜか動物が逃げる
お前がいたら触れる、だから協力してくれ
東条さんが言いたかったのは、簡単に言うとこういうことらしい
…なんで石矢魔の生徒はみんなこんなに言葉足らずなんだろうか
聞けば、東条さんも庄次さんも石矢魔の生徒らしい。
名前も聞いたことないから多分、数少ない、ケンカを"あまり"しない生徒なんだと思う
気まずくなった幼なじみが 隣の家に住んでいて、帰りたくない
私が二人にした説明はこれだけだったのに、二人とも深くは聞いてこなかったし、むしろ「俺の幼なじみの家に泊まるか?」とまで言ってくれ、今はその人の家に向かう途中だったりする
…間違いなく良い人たちだよね、うん
そんなこんなでその人の家に着いたのは夜中の1時を回っていた
「じゃあ、頼んだ静」
「はいはい」
「じゃあな、…えーと、」
「あ、さゆです清水さゆ」
「よく寝ろよ、さゆ」
くしゃ、と私の頭を撫でたあと、東条さんは庄次さんと歩いて行った
「…ベルちゃん?」
朝、東条さんの背中には、辰巳の家にいるはずのベルちゃんがしっかりとおんぶされていた
(東条さん、そのコ…)(あぁ、拾った)(拾った!?)