▽ だから貴方が大好きです(君と相合傘蛇足)
「才蔵さん…!」
その姿を見つけて、急いで駆け寄る。
『先生さ、雨が降りそうなのに小姫が傘も持たず出掛けたって話を聞いたら、いつの間にか出て行っちゃったから。きっと小姫のこと、わざわざ迎えに行ったんだと思うぞ』
その話を佐助くんから聞いたのは、つい先ほどのこと。
会ったのは、偶然だと思ったのに。
偶然じゃなかったなんて。
「…何?」
才蔵さんが、どこか気だるげにこちらへと振り返る。
やはり雨の日は、まだあまり体調がよくないのかもしれない。
「私のこと、迎えに来てくれたって本当ですか?」
「…さあね」
少し困ったような笑みを浮かべるその顔に、本当のことなのだと確信する。
「で、だったら何?」
どこかぶっきら棒なその言葉も、言い方は優しくて。
嬉しくて。
愛しくて。
「才蔵さん、好きです…!」
私の口から思わず出たのはその言葉。
「何それ」
呆れたような顔をしながらも、どこか嬉しそうな才蔵さんに向かって駆け出す。
そのまま勢い良く抱き付くと、思ったよりも強く抱き締め返される。
「大好きです」
「…知ってる」
本当は「俺もだよ」って、返して欲しかったけれど。
今はただ、この温もりが嬉しくて、そっと目を閉じた。
おしまい