▽ 命名するなら(才蔵)
才蔵さんのお部屋でお団子を食べながら、ふと気になっていた話題を出す。
「才蔵さんのご兄弟は、お姉さんが雪さん、弟くんが蛍くんってお名前ですよね?」
「…兄弟というか、ただの血の繋がった他人だけど」
「もう、才蔵さん!血が繋がっていたら、他人じゃなくて兄弟なんです!」
そう言ってその顔を軽く睨むと、才蔵さんは小さくため息をつく。
「はいはい。で?お前さんは、一体何が聞きたいわけ?」
「聞きたいというか、ちょっと不思議だなと思いまして」
「何が?」
「雪さん、蛍くんの間の子供の名前が、才蔵さんって」
「よーするに、俺の名前だけ仲間外れだって言いたいわけ?」
「な、仲間外れだと思った訳じゃないですよ?ただ、お名前の系統が違うなと思っただけで…」
慌てて言い訳めいたことを口にしたものの、いまいち説得力に欠ける。
案の定、才蔵さんに呆れ顔を返される。
「それが仲間外れってことでしょ」
「そういう意味で言った訳では無いんです。でも、気を悪くしたのならすみません…」
素直にそう謝ると、才蔵さんが苦笑する。
「別に。名前にこだわりなんて無いし。それで?」
「え?」
「お前さんは、何て名前なら納得したの?」
「納得、ですか…?」
その意味を図りかねて首を傾げると、ニコリ笑顔を返される。
「そ。『才蔵』じゃなくて何て名前なら、他の名前に合うと思うのさ?」
「そうですね…。やっぱり、春っぽい名前ですね」
「春?」
「はい!雪さんが冬、蛍くんが夏だから、間の才蔵さんは春の名前かなって。あ!それに才蔵さん、春生まれですし!」
「ふーん?じゃ、春の名前ってどんなの?」
「そうですね……」
春の名前、春の名前……。
とっさに頭に浮かぶのは春に咲く花の名前ばかりで、いまいち男の子の名前になりそうなものが思い浮かばない。
「………春」
「ん?」
「そのまま、『春』とかどうでしょう…?」
恐る恐るそう問うと、冷たい目線が返される。
「ひねりも何も無いね」
「す、すみません…。何だか女の子の名前しか思い浮かばなくて…」
「ふーん?じゃ、女ならどんな名前?」
「それは、もうこれですよ」
先程頭に浮かんだ名前で、女の子ならこれがいいと思ったものは一つだけ。
「『桜』です!」
自信満々でそう言ったものの、才蔵さんの反応は薄い。
「お前さんらしい、安直な名前だね」
「いいじゃないですか、桜!可愛いと思うんですが…」
「ま、覚えておくよ。男が春、女が桜、ね」
「え?」
「だってそれが、小姫が子供に付けたい名前なんでしょ?」
「!?」
「春に生まれるといいけどね」
そう言ってどこか意味有り気に笑う才蔵さんを見て、頬が一気に熱を帯びる。
「き、気が早いです、才蔵さん…!」
おしまい