▽ 春画の秘密(成実)
それが視界に入ったのは、本当に偶然、偶々だ。
ふと気になって足を止めると、店主が笑顔で話しかけてくる。
「旦那、お目が高いね。それ、今日店頭に並んだばかりだよ」
春画の巻物か。
別に興味が無い訳じゃないけれど、今買いたいというほどでもない。
しかし声を掛けられた手前、ただ通り過ぎるのも失礼な気がして、何気なしに開いてみる。
「今回は珍しく、小料理屋の町娘が題材なんですよ」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、目の前のあられもない格好をした女が、何故か小姫にしか見えなくなった。
何だ、これ……!?
どう見てもどれを見ても、全部あいつじゃないか…!!
小料理屋なんて、そんなに数があるもんじゃない。
これを買った男がもし、今の俺みたいに、小姫を想像していたら。
……何だそれ。
冗談じゃないぞ。
何故かふつふつと、怒りが込み上げてくる。
「旦那?どうかしました?」
「……ぶ」
「え?」
「ここにあるやつ、全部売ってくれ」
「ええ!?」
目の前で寝てしまった小姫に、少しだけ言い訳めいた口調で話しかける。
「勘違いするなよ?別にあれ、俺が見たくて買った訳じゃないからな?」
むしろ、見せたくなかったんだよ、誰にも。
おしまい