▽ 伝えたい想い(ヒロイン←才蔵)
※幸村⇔ヒロイン←才蔵←オリキャラヒロイン設定のヒロイン+才蔵
切なめ注意
「もう、才蔵さん。何でいつも隠れちゃうんですか?」
いつものように、彼女が帰ったのを見計らったように現れた才蔵さんに、非難の眼差しを向ける。
「そんなの俺の勝手でしょ」
皿に載った団子に手を伸ばしながら、才蔵さんはしれっとそう言う。
「…ふーん?60点ってとこかな」
もぐもぐと団子を食べながら、団子の採点をするその姿を苦笑しながら見つめる。
姿は見せないくせに、団子はちゃんと完食してくれるんだから。
それがどんなに不味くても、だ。
そんな優しさがあるのなら、少しくらい姿を見せてあげればいいのに。
才蔵さんに少しでも会えれば、彼女はどんなに喜ぶだろう。
「才蔵さん、今度はちゃんと、彼女に会ってもらえませんか?彼女も才蔵さんに会って気持ちを伝えられれば、それで区切りが付けられると思いますし…」
別に、両想いになりたいと望んでいる訳ではない。
ただ、好きと伝えたい。
団子作りを手伝っていると、そんな彼女の一途な想いが、ひしひしと伝わってくる。
「区切りねぇ…。それってさ、伝える側の一方的な自己満足だよね」
―――え?
不意に壁際に追い詰められ、すぐ目の前に迫る無表情なその顔を、困惑しながら見つめ返す。
「幸村とは順調?」
「え、ええ、まあ…」
「じゃあ、そんなお前のこと、俺が好きだって言ったらどうする?」
「え……」
冗談?
本気?
目の前の才蔵さんの表情は相変わらず無表情で、どちらなのか判別出来ない。
「…………」
無言で見つめ合う時間が、少しでもとても長く感じられた。
「さ、才蔵さ…「ぷっ」
不意に才蔵さんが吹き出す。
「そんなこと言われたら困るって顔してる。…ね?想いを伝えられる側の気持ち、少しは分かったでしょ?」
「も、もう、才蔵さん、からかわないでください…!」
「からかう、ねぇ…。ま、いいけど」
それだけ言って才蔵さんは、くるりと向きを変え、早足に立ち去っていく。
からかったんだよね…?
早いままの鼓動を落ち着かせようと、深呼吸をする。
ふと、才蔵さんが立ち止まり、こちらを振り返る姿が視界に入る。
逆光でその顔は見えないけれど、眩しさに目を細めながらそちらを見た。
「……小姫さ、今、幸せ?」
先ほどの告白が冗談じゃないような気がして。
一瞬だけ、どう答えるべきか悩んだけれど。
ただ、素直に伝えよう。
そう思いながら、満面の笑みを浮かべてその顔を見つめる。
「とても、幸せです」
「…そ」
表情は分からないけれど。
才蔵さんのその柔らかい声音から、優しく微笑んでいる気がした。
おしまい