思い出の場所






「帰って来い」

俺が何度もあいつに叫び続けた言葉が、どんなに無情なものだったかと。
うちは一族の…あいつの酷く痛んだ家を見て思い知らされた。
サスケの家を見たのは初めてだった。
変だな、長年「友達」をやってるのに。

しかし、もうそこを家と呼んでいいのかも分からない程、寂れていた。

「ここに来ると…吐き気がする」
サスケの歪んだ横顔を見て、俺は何も言えなかった。
中には入らず、正門を素通りして立ち去るサスケの後を、俺は追いかけた。


――帰って来たけど、住む家が無い。
そんな、少し考えれば分かることを棚上げして、サスケが里に帰ってくれば全て解決だと思っていた。

俺は馬鹿だ。

今は、黙ってサスケの後を付いていく事しか出来ない。
どうしよう。
本当は、伝えたい言葉があるのに。


気が付くと、川辺に来ていた。
そうだ、ここは…

「お前、アカデミーの頃…いつも…一人でここに座ってたよな…なぁ、サスケ…」

水面に突き出た桟橋、お前の寂し気な背中。
色あせた記憶が鮮明に蘇る。

「覚えてねぇな」

抑揚のない声でサスケは呟いて、少し寂しくなる。
夕日はあの頃と少しも変わらないのに。

「本当に…覚えてねぇの?」
「…。」

覚えていても、忘れた振りをするのがサスケだ。
もし、本当に忘れていても、あの時は確かに存在した。
お互い独ぼっちで、行き場の無い寂しさを、分かち合う様に小さく微笑み合った場所。
…俺の心の中にあるんだから、絶対に確かなものだ。

この場所が俺に勇気をくれた。

俺は帰る場所の無い彼の手を取り、告げた。

「一緒に住もう、サスケ」

考えなくても、自然と出た言葉だった。
本当はもう、長年、心の奥底に仕舞ってあった言葉だ。

辺りはしんとして、川の流れる音が強く聞こえる。
サスケは俺の目をじっと見て、小さく眉を寄せた。

その後、ふっと目を伏せた。

「それは、出来ない」

サスケの声は微かに震えていた。
完全に否定出来ていない気持ちを察したから、俺は落胆する事はなかった。

「どうして?」
「…お前とは…血の繋がりが無いからだ」

予想を外れた返答だった。
てっきり俺たちはどうせ気が合わないとか、ストレス溜まるとか、そんな事だろうと思ってたのに。
「血の繋がり」とか「家族」に拘るあたりサスケらしいというか…。

「家族になりゃいいじゃん」
「そんな簡単に言うなよ」
「簡単だよ、なれるよ…俺たちなら。ずっと一緒にいれば…」
「やっぱ…バカだな、お前…」

サスケは冷笑した。
俺は何も可笑しい事を言っているつもりはない。
心底真面目に、お前に伝えたい。
だから、俺はサスケから絶対に、目を逸らさなかった。

「サスケ、家族って…血の繋がりだけか…?違うだろ?
心ん中に居て…生きる支えになって…気付けば、一緒にいる人と…自然となれるんだよ、家族に。
俺たちは…一緒に生きていけるよ…いや、俺は…お前と一緒に生きていきたい」

途切れがちで、緊張して上手く喋れなかったけど…
最後の言葉は決して揺らぐ事は無い。

それが伝わったのか、サスケもやっと俺の目を見た。

「約束出来るか…絶対に…俺を裏切らないと…」
「思い出してみろよ…俺がいつ、お前を裏切った事がある?」

握り締めた手は、絶対に離さない。

「今までは…無かったからって…これから先も…そうだとは…」
「誓うよ、サスケ。俺はずっとお前の味方だ」

サスケの瞳が揺らいだ。

「ナルト…お前はどうしてそんなに…」
「分かってるだろ?友達以上に、お前の事が大切だからだ。それだけだ」

「俺が…お前をどう思ってるかは…関係ねぇのかよ…お前…ホント自己中だな」
「バーカ、それはお互い様だってばよ!嫌なら無理矢理にでもこの手を解いて逃げていけよ」
「そうしたところで、お前はどうせ追いかけてくるだろ?」
「よく分かってんじゃん」

夕日が沈むみたいに、
また太陽が昇るみたいに、
本当に自然に、俺たちは口付けをした。
人生で、二度目のキスだ。

「一緒に帰ろう」

この日、思い出の場所は、誓いの場所に代わった。

「ナルト、覚えてんだ…本当は…全部…」
「そっか、良かった」

手を繋いだまま、俺たちはまだ不揃いな足並みで、同じ方向へ帰って行く。








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