空の記憶



「やっぱりここに居たのね、シカマル。」

薄ら目を開けると、いのが俺を見下ろしていた。


長い事目を閉じていたので、太陽の明るさが目に染みた。

寝転んでいた体を起こすと、ため息を吐きながらいのは俺の隣に座って来た。

「チョウジに聞いたのよ。あんた、最近ここの土手で昼寝するの好きだって。」


初夏、青く茂った草むらがさらさらと揺れる。
いのの金色の髪も綺麗になびいていた。

「あーあぁ、あんなに綺麗に咲いてたのに、全部綿毛になっちゃったね。タンポポ。」

「…何か用か?」
周りの景色に目もくれず、寂しそうないのの横顔を見つめた。
いのは綿毛を一つ摘み取ると、子供みたいに、ふぅーっと吹いて遠くへ飛ばした。


「アスマ先生が死んでから今日でちょうど一年ね。」
「そうだな…。」
「お墓参り、三人で一緒に行こうと思って。チョウジはお供えのお菓子買いに行ったわよ。
私はお花。あんたは線香持って…。」

「…悪い。俺、もう先に行っちまった。」
アスマと二人きりで話したいことが山ほどあったから。

「えっ」

いのは一瞬ムッとした顔をしたあと、「そう」と小さく呟いて俯いた。

「もう一度行くよ。」

「いいわよ、別に。…あんたは毎日のように行ってるし。チョウジと二人で行くわ。」


それはそれでひどく寂しい気がした。


俺は一人が好きなのに、いのとチョウジが二人で何かをするとなると、
どうしてかいつも心が落ち着かなくなる。


取り残されたような。
それが大事な用事であればなおさら。

「いや、俺も行く。」

子供染みた感情が、この時だけは芽生える。
長年三人で生きて来て、培われた…というよりも、一種の『しがらみ』みたいなものか。

「そう?じゃ、三人で、行きましょうね。」
いのは小さく笑った。
三人で、の部分がやけに強調されていた。

俺の気持ちを見透かしているのだろうか。


「シカマル、パパたちのところにも、行こ?」
「…あぁ、」

「私たちは、お墓に入る事にならなくて良かったわよね。
あの戦争を生き残ったって、ほんとに自慢できる事だと思うわ。
いっぱいいっぱい、楽しく生きなきゃね。落ち込んでても。悲しむもん。パパが…。」

タンポポみたいに笑っている、いのの髪には、今日は綺麗な花飾りが付いている事にやっと気付いた。

こいつは、綺麗に咲いている、と思った。


もし、いのやチョウジが…誰かと結婚したら。
この絆はどういう変化をするのだろう。

チョウジだったら良い嫁さん貰える気がする。
心から、祝福出来る。

ただ、いのがもし…。


「お前さ…。」
「ん?」

「あ、いや…。」
「何よ。」

「俺と同じ墓に入るとか、どうよ…。」

二秒後、盛大な笑い声が青空に響いた。

長い事、それは止む事は無かった。


「ハハッ、はぁ…可笑し。まだ寝ぼけてんの?あんた。」
「割とマジなんだけど。」
「……。」


いのは髪飾りをいじりながら、目を泳がせていた。

「私、当分お墓に入る気はないから。」
「……お前、はぐらかしてんだろ。」

「あんたが一番大事な事言わないからでしょ。」
「……何、それ。」

俺にとって一番大事なこと、今言ったつもりなんですけど。

「『好き』って。」
「…、バッカ…言えるかよ。」
「チョウジにはいつも言ってるじゃない。」
「また別のだよ、アレは!」

「…ま、いいけどね、」

噂をすれば、「おーい!ふたりともー!」と、遠くからチョウジの声がした。


「あ、あんたお備えのお菓子ちょっと食べたでしょ!」
「多めに買っておいたから大丈夫。」
「そういう問題じゃないのよー!あとで割り勘するって言ったのに!!」
「まぁまぁいいじゃねぇか。」
「シカマル!あんたはチョウジに甘過ぎ!」
「いのも食べる?このお菓子すっごく甘いよ。」

その時、ふわり、吹いた風に、少し煙草の匂いが交じっていた。


「え?」


俺たちは三人揃って、一瞬、空を見上げた。

















「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -