―次の方どうぞ― ※シノ=お医者さん  キバ=患者さん





このところ、喘息を煩って通っている患者が居る。
彼の名前は犬塚キバ。
多分俺と同じくらいの年齢だろう。

近所のペットショップで、犬の世話係兼ブリーダーとして働いているらしい。

この地で開業医を始めて俺も3年足らずだが、
プロとしての意識から患者をそういう目で見た事はもちろん一度もなかった。

どんな美人が来ても、性的な興奮を覚えた事は当然、皆無。

彼に…会うまでは、そうだった。

よりによって、何故、自分と同性の彼に妙な関心を抱いてしまったのか。

この地域に内科はここしかないため、風邪を引くたび彼はよくここへ診察に来た。
顔見知りになったので、近所のスーパーや本屋などで会うたびに話をする機会があって、次第に親しくなっていった。

具合が悪くなると、日曜日で病院は休みだというのに、
俺の携帯に電話してきて、自分のアパートに呼び出して看病させるような、傲慢なところがある。
ほとほと呆れるが、しかし医者として、目の前に病人が居たら救ってやりたい意志が働くのは必然のこと。

彼は一人暮らしで(飼っている大きな犬を家族だと言い張っているが)他に頼れる人物は居ないのだろうか。

「ただの風邪くらい、彼女に看病してもらえばいいだろう。」
それとなく確認しようと言ってみた。
「彼女なんていねぇし。」

内心ガッツポーズを取る自分に呆れてしまう。
「しかし、わざわざ医者の俺を呼び出すなんて、…。」
胸の高鳴りを紛らわすためにぼやいていたが。
その時、突然彼に言われたのだ。

「つーか俺さ、シノ先生に惚れちまった。」
「…は?」

まったく予期せぬ告白に、体が固まってしまった。

「シノ先生が看病してくれるなら、毎日風邪引いてもいいかも。なーんて。」
「ば、バカを言うな!早く元気になってもらわないと困る。」
「俺、本気だぜ?なぁ、元気になったら、デートしてくれよ。」
「でーと?」

「男相手じゃそそらねぇって?」
「…あぁ、悪いが、生憎そういう趣味は無いのでな。」

俺は思わず嘘をついた。
内心、かなり動揺していた。

信じられないと思った、それは嬉しい意味で。

本当は、彼が初めて、風邪を引いて病院を訪れた時から…
その火照った顔、聴診器を当てる胸、乳首の形、熱に魘された声。
俺はナニかに目覚めてしまったのだ。

犬塚キバは、外見も、性格も、俺のドストライクだったのだ。

しかし、下心で彼の体を診察するなんて、失礼である事極まりなくて、
出来る限り気持ちを抑えていた…。

何より患者に手を出す事は、医者として自分のプライドが許さなかった。

しかし、彼の部屋で告白を受けた時、激しく揺らいでしまったのは事実。

首を縦に振りそうになるのを、何とか理性でカバーした。


「ふぅん、ま、今は振り向いてもらえねぇかもしれないけど。
見てろよ。俺、自信あるから。」
キバはニヤリと笑いながらそう言った。
だめだ、おそらく彼には俺の心は見透かされているのだろう。


謎の喘息になって、一日置きに彼が来るようになってからは、自分との戦いでもある。

「また来たんですか。あれから良くなりませんか?」
「良くならねぇよ!全然効かねぇじゃんこの薬!ゲホゲホッ!」
「そんな筈は無いんだが…ちゃんと毎日欠かさず飲んでいますか?」
「飲んでるっつーの。でも咳が止まらないんだよ。」
「ただの風邪ではないのか…困ったな…。
とりあえず、聴診をしますので服を上げてください。」
「ん。…ひゃっ、冷たいっ」
「へ、変な声を上げないで下さい。」
「だってぇ…あっん」
「…!!!//////」

ダメ、だ。
犯したい。
患者だろうと病人だろうと、今すぐ服をはいでこの乳首に吸い付きたい。

「シノ先生、今エロい事考えてるだろ。」
「な、何を言う!そんなわけないだろ!!」
「顔すげぇ真っ赤だぜ!?ゲホゲホ」
「バカな事を言ってないで、ほら、後ろを向け。」
「はいはい。はぁ…あ、くすぐったい!」
「だから変な声を出すな…!!///」
「しょうがねぇじゃん!勝手にでちゃうんだよ。ゲホッ」


それから三日空いて、犬塚キバはまた病院に来た。

「やっと治ったぜ〜☆シノ先生、サンキューな。」
「…。元気になったのは良いが、わざわざ報告をするために来たのか。」
「そうだよ。お礼に今度飯おごらせてくれよ。」
「医者は患者の病気を直すのが仕事だ。お礼なんかいらない。」
「固いなぁ。まぁ、そういうところが好きなんだけど。」
「…///」
「あ、照れてる。可愛い〜」
「からかうな!早く帰れ!次の患者が待っているんだ。」
「はいはい、帰りますよ。で、今日の仕事何時に終わんの?」
「は?」
「俺。待ってるから。」

満面の笑みを浮かべて、キバが言った。
やはり、具合の悪そうな顔より、彼には笑顔が一番似合うな、と思った。

「……8時には、終わるだろう…。」
「ほんとっ!?付き合ってくれるのか!?」
「…しょうがないだろう…。」
「やった〜!大好きっ!シノ先生!これからも、俺の体の事よろしく頼むぜ!」
「ちょっ、病院で抱きつくな!そして誤解されるような事を言うな!///」

犬塚キバの事を、俺は医者としてではなく…
一人の男として、その笑顔をつくっていきたいと、思ってしまったのは…
果たして許される事なのだろうか。

彼にはまだ、黙っておくか。
周りの看護士が、呆れているしな。












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