シーソーもブランコもない、寂れた公園のベンチに座っている。雑草だけが生い茂り、無邪気に遊ぶ子供もいない残骸の様な場所に、なまえと二人でいた。隣に座るなまえは相変わらず俯き、引っ込み思案だった。もう日が沈んでいくという時刻だというのに、随分気分が悪かった。少しもすれば帰ってしまうのに、明るく振る舞えよ。胸の内でそんなことを思ったが、口には出さなかった。彼女が元よりそういった人間性だということを知っていたからだ。
 なまえは馬鹿だ。いきなり現れた、得体の知れない奴の言うことを聞いて、こうやって何度も一緒になって会って、疑うことを知らない。俺はベクターだと名乗ってはいるが、体は人間態なのに、遊馬と同じ学校に通っているのに。しかし、そこがいじらしくもあった。こうして二人でいる間も、なまえはスカートの裾をぎゅっと掴み、伏目がちに俺を見上げ、か細い声で俺のために行動をするのだ。俺のためだけに。正確には、自分が俺に痛い思いをさせられないために、かもしれないが、その行動原理の中に俺が存在していることには変わりがなかった。それが何となく支配欲を満たした。
 なまえが身じろぎをした。左手で右腕を抱え込む様にして、相も変わらず俯いている。何か話したがっているのだろうと思った。

「言いたいことがあるならさっさと言えよ。そんなに俺が聞いちゃいけねえことなのかァ、んん?」
「あっ……えっと、えっと……あの……」

「今日、ゆうまくんが、」

 何を尻込みしているのかと思えば、こいつが話したがっていたのは九十九遊馬のことだった。眩暈がする様だった。会う様になって暫くだが、こいつが遊馬のことを話に持ち出すなんて滅多になかったのに。気落ちする反面、俺は何を期待していたのだろうという気もしてきた。だいたい、なまえは遊馬と同じ学校に通っているんだから、今までなかなか話題にしてこなかった方がおかしいのだ。しかもこいつは遊馬と同じ学年で、遊馬は学内ではもはや有名人で、お互いに仲が良くて。なまえは先程から切り出したきりずっと遊馬がどうたらと細い声で、嬉しそうに喋っている。虫の居所が悪い。ふと気が付くと、なまえは話すのをやめてびくびくとしていた。どうやら無意識になまえの手首を強く掴んでいたらしい。しかし手は離さない。何か強い衝動が、俺を突き動かしていたからだ。俺は、ごめんなさいごめんなさいと謝り続けるなまえを無理矢理連れて帰った。
 薄暗く、硬い床に、なまえが横たわっている。まだ目を覚ます気配はない。広がったスカートから、放り出された脚が伸びて、はしたなかった。手首に薄っすら残っている痣を確認して、少しばかり満足気になったが、こいつをここまで連れて来た本来の目的を思い出した。目的と言える程、明確な道理なのか。道徳などというものはどうでもいいが、それが気にかかり、何となくというもので行動をしているのではないかと考えた。しかし、もうここまで手をかけてしまっている。瞼を閉じて静かな呼吸をするなまえの、あの遊馬と、同じ学校の制服を剥ぎ取った。赤く硬い岩肌に、滑りのいい素肌が晒される。髪が散らばって、顔がよく見えないので、自分の長い爪で除けてやると、微かに瞼が動いた。しかしもう止める気もなく、なまえの身体に触った。胸に手を触れてみる。こいつがこのまま俺の八つ当たりを吐き出すまで目覚めなければいいのに、という思いと、早く気がついて痛い目を覚えてしまえばいいのにという思いとに混ざった、虫の居所が悪い気持ちに考えを占領された。起きなければ、こいつは何も知らないまま戸惑うばかりで、それこそ俺の自己満足で、この面倒くさい衝動を解消することが出来る。だが起きてしまえば、どうだろう。こいつは、怒るだろうか。それとも、怖くて、泣くだろうか。どちらしても、結果的に最中には目を覚ますだろう。それでも構わなかった。いつも俯きがちでしおらしいこいつの、取り乱した姿が見たい気がしてきた。
 しきりに、ううんと小さな呻き声を上げるなまえの服を脱がせて身体を弄んでみた。感覚が強いであろう箇所を触る度に、指が跳ねたり、はっきりしない声を出すのが面白い。しかし、少しもしない内にこれも飽きてしまった。腹の底がむかむかして、早く犯して手篭めにしたいという気持ちがしてきた。乱暴に下着を脱がす。首筋に噛みつきたかったが俺には口がないから、太腿に爪を立てて股を広げた。少し期待していたが、当然解れてはいない。このままぶち込んでしまえば痛いだろうが、それも構わないので、膣口を指の腹で広げて、作り上げた人間の男性器で無理矢理挿入した。すると半ばまで埋まったかと思った時分に、なまえがやはり苦しげな声を上げて目覚めだした。いつもの様に、煽る様な言葉を流暢に喋りながら、自身を埋めてゆらゆら動かしていると、なまえは、当然というべきか、恐怖に感情を支配されている様で、びくびくと震えすすり泣き始めた。突き上げる度に揺れる甘やかな声が何ともいじらしい。

「いっ……いやっ、いやです、やめてください!」
「なあにがやめてくださいだ、男にモノ突っ込まれて気持ちいいですうってかア? んン?」
「ちが、ぁっ……うぅ……んっ、なん、で……」
「なんで、だと? そんな事も自分で分からねえのか、お前は本当に馬鹿だなア」
「ひっ……! やぁあ、やだよぉ……べっ、べく、た、さ……あっ、あぅ……」

 不意に胸が高鳴った。とろんとした瞳で俺を見上げるなまえ。突き上げられるがままに声を上げ、苦しげに俺の名前を呼ぶ事しか出来ないなまえ。みだれた、すがた。これだ、俺は、確か、きっとこれを欲しくて、正体の分からないわだかまりの様な鈍い気持ちに苛立っていたのだ。それが今ではどうだ。俺だけを見ている、俺にされるがまま言う事を聞いて、俺だけを感じている。幸福に似た満足感に口角を上げて、突き上げる速度を上げた。人間じゃないんだから、どうせ中に出したってガキなんて出来やしない。

「あっあぁ、んうぅ、あっ、あひ」
「お喋りはどうしたなまえ、んン〜? あんあん喘いじまってよォ、いい子ちゃんじゃねえの、お前は本当に馬鹿で可愛いなア」
「べく、あっ……ぁっ、たあ、ひゃ……うぁっ、ふ、うぅっんぁあ……!」
「おォ? イっちまったのかぁ? どうだなまえ、気持ちいいよなア、そのままじっとしてろよ、すぐに出してやるからな」
「……! いっ……いやぁっ! な、なか、は……ぁあっ」

 大人しくなったと思ったら、中に出すと言った途端に再び抵抗し始めた。俺がお前に射精した所で何にもうまれやしないのに。そう考えている内に、また苛立ってきた。こんなに、俺はこんなにこいつにあれこれと色んな気持ちを抱いているのに、こんな事をしても、例えばこいつが俺の物である証拠とか、そういう物だって何一つうまれないんだ。腹が立った。暫く揺り動かして、射精感がしてきたので、なまえの制止の声を無視して中に出した。なまえはぐったりした様子で、硬い床に髪が散らばって、仰向けの乳房は重力に従事している。声をかけてみたが、なまえはしきりに、「なんで、どうして」とすすり泣きをしながら呟くばかりではっきりとしない。
 放り出された手を握って、「どうして」という言葉の意味を考えてみる。違う存在なんだから、正確に思いが分かる訳はないが、おおよその気持ちは、俺にだって汲み取る事が出来るはずだ。俺は真っ先に、話してみろと言われて、尻込みしながら遊馬の話を持ち出したなまえの考えを冷えた頭で思い直した。なまえの人間性は、明るい性格とは言えない。それでも今の今までこいつは、正体も知れない俺に付いて言う事を聞いて、時には気を使って来た事だってあったのだ。それを思い出すと、遊馬の話をし出したのだって、あの沈黙の中で、何か喋らなくてはいけないと、そうしたのだろうという事なんて、十分考えられる事だった。正しい、定かな事は分からない。ただ、今は少し、穏やかな気分だ。


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