(夢じゃない)(ミストレ+バダップ)(オマージュ)










中学二年間までの間、オレの人生には何の陰りもなかった。類いまれなる美しき容姿、両親からの寵愛、恵まれた教育環境、異性との不自由ない交遊、何を取っても指摘すべき所はないはずだ。道を行けば小鳥がさえずり袖が触れれば胸の大きい女の子が上気した目で見つめてくれる、まさにナンバーワンの称号にふさわしいだろう。それが今ではどうだろうか。学年単位、全校単位のあらゆる科目でもオレの成績は二位、オレが一番に君臨できる種目といえば、この類いまれなる美しい容姿と女子からの絶大な支持しかない。
何故、オレが王牙学園でこんな有り様に成り下がったのか、全てはあの男、バダップ・スリードの存在だ。バダップ・スリードは、大人をも凌駕する神童と持て囃された才能で、一年からしてオレの成績をぐんと跨いで向こう岸に渡り移った。
バダップ・スリードという人物がいる限り一番になれないという重圧はすぐにオレのプライドを煽った。どんなに努力をしても、バダップの存在がある限り彼に次いで二位という現状は変わらない。悔しくてたまらなかった。腹立たしい。この男を見返してやりたい。そんな思いは早くにオレの身体を動かした。

コンプレックスを刺激されて、バダップを見返そうと行動に移したオレが何をしたのか、それは「君の力を試したい」という名目での決闘だった。勝利条件は簡単、どちらかが降参するまで。勝算は少なからずあった。オレは仮にも、本来ナンバーワンの地位に就くべき人間だ。相手がバダップとはいえ無様に負ける訳がない。そんな心積もりはオレの鼻骨、そして戦意と共に砕け散っていった。



バダップに負けたことは悔しかったけど、いつまでも同じことでジメジメ湿気を保っていてもどうにかなる訳ではない。とはいうものの、諦めがつく様でもない。そこでオレはバダップの懐に入り込み寝首を掻く計画を企てた。
オペレーション・オーガのこともあったが、オレ直々の苦労の甲斐あって順調に彼との距離は短いものになった。昼食の時間になり、食事を取っているバダップの姿を見つけ隣をいいかと訊けば「ああ」と短い肯定が返って来るし、休憩時には雑談や戦略について語り合い、時にはエスカバを出しに笑い話もした。
しかし、そんなことをしても一向に寝首を掻ける様な隙は見えて来ない。決闘をした時にも薄々勘づいてはいたが、日常生活の何気ない場面においてもこの男に死角は一mmたりともない。ぱらぱらと落ちてくる前髪を払うのに顔を微妙に振る一瞬にも無駄はなく、オレは主導権を握ることすら出来なかった。
こんなことではいけない。何とかして彼を打ち負かす何かを行動にしなければ。




(略)




「君のことは、嫌いじゃない」

くそ、また負けた。

 
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