債鬼




 昼を過ぎた頃に家を出た。祝日であるためか、交通量が多く、顔を伏せながら人だかりに混ざって歩いて行く。目的地は決まっていた。俺が以前から金を貸していた、あの女だ。名前をなまえと言った。なまえは、何度言っても都合が悪いとか、財布を忘れたとか、何とか言って言い逃れをする。人に金を借りる人間に碌な奴はいないと思うが、あいつには俺が一方的に金を押し付けていた。だからなまえが常習犯なのか、それとも俺以外に貸してくれる人がいないのかは分からない。ただ、返してもらおうかと取り立てに行った時の、青ざめた顔を見るのが楽しくて仕様がなかった。
 なまえは学生だ。貸している金額自体は、俺から見ればたいしたものじゃあないが、ただの学生に五万、六万円はぱっと出せるような金額ではない。ましてや貧乏なこいつには重い借金だろう。苦しい立場に追いやって、弱っている所へ更に追い打ちをかけた時の絶望した表情や仕草がたまらない。これだからやめられないんだ。
 今から行くと連絡しておくと工作をするから、今回は黙ってあいつの家に向かう。駅のホームで時間を確認した。二十九分という表示を見て、そろそろだと思った。電車が到着し、一番後ろの車両に乗り込む。混み始めた車内で、今度はあいつをどうしてやろうかと考えた。商売柄色んな人間との付き合いがあるが、あれは中々したたか者だから、大変おどおどと顔を強張らせるばかりで泣いて許しを請ったことがない。何度か鼻をすすっていたことはあったが、いよいよあちらから折れて屈服して貰おうと思う。
 間もなく目的地の駅が近付いてきた。直ぐ降りられる様に、軽く身支度をしてから席を立つ。車内放送が入り、程なくして扉が開いた。

 それから幾分か歩き、人知れずなまえの家の前に到着した。普段なら、時間帯によって家の人に挨拶をするのだが、今日は違う。なまえの親が居らず、なまえが家にいる時を狙ってわざわざ連絡も入れず足を運んだのは、何よりあいつに立場を分からせるために他ならない。
 半ば強引に金を貸して言うことを聞かせていたのは俺自身だが、何日も借金を踏み倒し、人が取り立てに出向いてやったというのに甘えて無理を通す態度にいい加減腹が立ってきた。何も利子まで払えと言っている訳じゃないんだから、金を作る猶予さえあたえられれば返せるだろうことを、何をぐずぐずしているのか分からない。自分でも身勝手な悩みだと思うが仕方がない。一息、呼吸を置いてから呼び鈴を鳴らした。

 何分か経ったものの、物音一つ聞こえない。居留守なのか、本当に出ているのか。どちらにしても、今日、身の程を知らせてやると決めて出てきたのだからここで引き返す訳にはいかない。一月前、なまえに言って作らせた合鍵を使って扉を開けた。玄関には、なまえのものであろう靴しか揃っていない。何となく散らかっていたローファーの向きを揃えてから靴を脱いで上がっていった。

「おい、なまえ、いるんだろう。返事ぐらいしたらどうだ」
「……すみません」

 居間に上がって声をあげると、廊下の方から弱々しい返事が返ってきた。どうやら本当に居留守だったらしい。すがるような謝り方に一層怒りが込み上げてきて、ずんずんと声のした方に足を進めていった。俺の姿を見るなり、大袈裟に肩をびくつかせたなまえの手首を掴んで、こいつの部屋に放り投げる。その間に、何やら言っているのが聞こえたが無視をした。

「いたっ、ああ……あの、落ち着いてください」
「俺は落ち着いてるよ。頭を冷やすのはてめえの方だ」
「お金の方はもう少し待っていただけると、お聞きしていたんですけれど」
「何日待ってると思ってんだ、こうして取りに来るのは、これで何回目だ? 大体な、たかだか数万の貸し借りでもたもたしてんじゃねえよ」
「望んで借りた訳じゃないのに……」
「問題はそんなことじゃないだろう。そろそろ幾らか返して貰わないと、俺も割に合わねえって言ってるんだよ」
「そんなこと、知りません。離してください」
「よく口答えするじゃねえか。お前がその気なら、こっちも相応の措置をしないとなぁ」

 俺がそう言うと、なまえは、さっきからずっと震えっぱなしの声を微かに響かせ、怯えて見せた。措置なんて大層な言葉を使ったが、今からこいつにやろうとしていることは、ただの強姦だ。もしかすれば、俺は最初から、こいつにこれをしたくて金を押し貸したのかもしれない。
 非常にいい気持ちで、洋服のボタンを外していく。なまえはとうとうすすり泣きを始めた。込み上げる笑みを隠しきれないまま、鎖骨に噛みついてやった。こんな面白くない奴に遠慮はいらないからと一気にブラジャーまで剥ぎ取ると、一応抵抗の意はあるらしく、手足で体を押された。一瞬どうしてくれようと考えたが、やはり女の力なので大したことはなかった。腰にかけていた体重を少し強くして、貧相な胸を鷲掴んだ。たぶん痛い。現に悲鳴が聞こえている。

「Wさんやめてください、お金ならはんぶん、半分だけでも払いますから」
「その必要はねえな。金以外にも、返し方はいくらでもある」
「そんなこと……こま、困ります……ひっ」

 掴んでいた手の力を少し抜いて、胸の先を摘まんでやった。高い声がしたから、更に指の腹でこねたり口に含んでやると、足をばたつかせた。いやいやと首を振るが、フローリングの床に押し倒しているので頭が痛いだろうと思う。
 胸への愛撫にも飽きてきた頃、慣らすのも程々に早く入れてしまおうとスカートを捲った。なまえは、青ざめ強張った顔で、必死にやめろと制止をかけてくる。拒絶してくるのは面白くないと思ったが、これから見られるであろう、こいつの苦しみに満ちた様子を想像して、また気分がよくなった。

「ふへっ、なまえ、怖いか。自業自得だぜ」
「うう……Wさん、お願いですから、やめ……やめてください」
「さあ、どうしようかねぇ」

 下着を横にずらして手を差し入れた。また、なまえは鼻をすすり始めた。見れば、目元は涙でぐちゃぐちゃだった。満足感でいっぱいだ。そっと、痛まない様に陰核を軽く擦ったりして、入り口が柔らかくなるのを待つ。耐えているのだろうが、爪で床を引っ掻く音が耳に障った。
 随分貧弱なのだろう、抵抗するのに体力を使い、既に四肢がぐったりしていた。これも、金がなくてまともな食生活が出来なかったせいなのかもしれない。何にせよ今は好都合だ。無遠慮に膣口を指で広げ、露にした自身を押しつける。なまえの喉から、ひゅっと空気の通る音が聞こえた。

「ひぃっ、あ……やめ、やめて」
「やーだね」

 すっかり怯えきったなまえ。可愛い。これだ、これが欲しかった。きつそうな中心を一息に突いて自身を埋める。瞬間的に響いたなまえの悲痛な喘ぎ声に反応して、下腹部により熱が集まるのを感じた。もう慣れたかという頃合いに、奥まで突き入れると、また呻いた。

「ふへ、ざまあねえな、なまえ」
「ぁ、が……ふぉーさ、んぎぃっ」
「お前には、これでしばらく、残りを払ってもらうからな」

 なまえはただ、泣いて喘ぐばかりだった。弱々しい身体に自分の感情をぶつけていた。やがて腹の熱が収まると、力の入っていた身体が、だらんと、硬く冷たいフローリングに広がった。床が体液で少し濡れている。
 目を手で覆い、泣きながら、ごめんなさいごめんなさいと謝り続けるなまえを見下ろして、俺のしたかったことは本当にこれだっただろうかと考えた。
 それから、なまえは以前より一層しおらしくなった様だった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -