あんどろいど




僕には、ひみつだけれど大好きなことがあった。それは、兄さんの研究室で眠っているおねえさんを見ることだ。おねえさんはずっと眠っていて、まぶたをひらいたところを僕は見たことがない。もしかしたら、僕が知らないところで起きあがって、もしかしたら、お喋りをするのかもしれない。もちろん、兄さんと。
僕は、おねえさんの横になって目を瞑っている姿しか知らなかったけど、毎日おねえさんに会いに行くうちに
わかってきたことがあった。おねえさんは、機械で、元々は父さんが作っていたということだ。何故なら、このまえ、こっそり聞いた、兄さんと父さんが話していた会話の内ようと、おねえさんの見た目がぴったり一致しているからだ。
おねえさんは、父さんから兄さんに渡ったもので、僕のかみの毛とはちがって、まっくらやみのかみの色。目の色はわからないけれど、きっと素敵な色だ。

ある日、兄さんに、「兄さんの研究室にいるおねえさんは、いつも眠ってばっかりだね。兄さんは、起きたところを見たことがあるの?」と聞いてみた。おねえさんに会いに行っていることはひみつだったから、こんなことを言うのは、たぶんいけないことなんだと思った。でも、兄さんだけおねえさんのたくさんを知っているのは、ずるいと思う。だから言ってみた。兄さんは僕の言葉に目を見開いて、しばらく喋らなくなった。兄さんが腕くみをする。左手が上のときは考えごとをしている時の兄さんの癖だ。僕は答えをせかすように、むずかしい顔をする兄さんをじっと見上げた。
やがて兄さんはくんでいた腕をほどき、しゃがんで僕に目線を合わせた。さっきのむずかしい顔とはまったくちがう、やわらかい表情だった。

「ハルト、彼女は寝ているんじゃなくて、休んでいるだけなんだ。準備が調ったら、お前にもすぐ彼女を紹介してやる」

兄さんは長いちんもくを置いてから、やさしい声でそう言った。すぐ。確かにすぐって言った。近いうちに、おねえさんと本当にお喋りができる。僕は兄さんの言葉がうれしくて、僕のかみをなでる兄さんの手をにぎった。

「ただ、もう少し待ってくれ。まだ少し、心の整理がついていないんだ」

兄さんの目は今度こそ悲しそうだった。


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