嘘つきの時間1













「ロー!久しぶり!」



駅の改札前で見知った背中に声をかけた



「あぁ、久しぶり」





ローとは昔からお互いに好意があったことを自覚していてもタイミングが合わなくて恋人にはなってない、そんな関係

ふと思い出したときにはLINEを送れば半日後には返事が返ってくる



久しぶりに食事でもしないか、誘ってきたのはローから



3年付き合った彼氏と先日別れた私には正直都合がよかった



「なんだかんだでもう6年の付き合いになるんだねー」

「リオが10代の頃から知ってるからな」

「それだけ経てばローもアラサーになるよねー」

「その単語は女にだけ使え」





予約していたお店へ向かいながらローを見ると整った顔と目があった



伊達メガネをしているローは3割増しでイケメンで思わず目をそらす



「リオは昔から変わらずかわいいな」

「ローだってイケメンじゃん。回りのお兄さんのスカウトしたそうな視線がグサグサささるよ」



包み隠さない褒め言葉にドキドキするのは今も昔も変わらない

でもそんな本音を見せるのが悔しくて私も褒め返す、これも変わらない流れ



予約していたお店は和風ダイニング

魚好きなローがイチオシだというお店ののれんをくぐる



「さて、何が食べたい?」

「ローに任せる!」

「少しは悩め」

「えー…あ!ユメカサゴの塩焼きだって!カサゴなんて食べたことない!」

「新しいメニューだな…頼んでみるか?」

「うん!」



一通り料理と飲み物を頼んで水の入ったグラスに手を伸ばした



「彼氏とはどうなったんだ?」

「別れてきた!」

「また唐突だな」

「んーまぁマンネリもあるし、あとは金銭的な面が大きいなー」

「ヒモだったのか」

「そこまでじゃないけど、デートしてもほとんど折半とか、移動費ケチって私の家にきてばっかりとか、なんかときめきを壊されててさー」



冷たい水が喉を通って1つため息をつく

3年付き合った結果彼氏がダラケていくのに耐えられなくて私から別れを切り出したけど、本音を言えばローの存在が大きかった



医療系の仕事をしているローに体の不調を相談したことがきっかけ

私の相談に真剣に答えてくれて、時折優しくしてくれて

私の中でローの存在がどんどん膨らんでいくことには気づいていた



でもローには彼女がいる

1年前くらいに会った時に彼女がいると話を聞いた時は軽いショックを受けたけど、その時は私も彼氏がいたからあまり気に留めないようにしていた





「お待たせいたしました」



個室のふすまを開いて店員さんが料理を運んできてくれる



「へぇ…ヒメカサゴってこんな形してるんだね」



机に乗せられたお皿にはヒメカサゴの塩焼きが鎮座して、大根おろしが添えられていた



「だが…どこから食えばいいのかわからねぇ魚だな」

「とりあえずヒレ外す?」

「食えればなんでもいいだろ」

「それもそうだね」



ヒメカサゴと格闘するうちにお刺身や汁物が運ばれてきて、程々にお酒を飲みながら料理を楽しむ



私の体はグラス一杯ですでに手のひらが赤く染まって、酔いが回っていることを教えてくれた



ローはと言えばすでに3杯は飲んでるはずなのに顔色1つ変えずユメカサゴの骨と格闘している



一本一本丁寧に骨を取る様子がかわいくて



気づいた時にはローの頭に手を伸ばして撫でていた



「……ん?なんだ?」

「ローがかわいいなーって」

「かわいいのはリオだろ」

「魚の骨と格闘してるローがかわいいの」

「人の体に比べりゃ魚の骨くらい簡単なもんだ」



持っていた箸を置いてグラスに手を伸ばす

その指先で私の体に触れられたのはどれほど前だったか

あの頃の子供だった私とはもう違う

私だってローに触れたい



彼女がいたって構わない

私のほうがローと長く付き合っているのだから、そんな希望的観測を持ち始めてからはどうすればローが私に振り向いてくれるかを考え続けている



「ロー、このあとどうする?」

「ん…あまり騒ぐ気分ではねぇな」

「じゃあさ、この近くに個室の満喫があるんだけどそこでぐだる?」

「個室?」

「普通に寝泊まりできるくらいには快適らしいよー」

「じゃあ適当に菓子でも買って行くか」

「異議なしっ」



程々に食事を済ませてトイレに立つ

鏡の前で赤くなった自分の顔を見ると、これからする私の行動を全てをお酒のせいにしてしまえそうな気がした



備え付けられていたマウスウォッシュで口をゆすいでから席に戻る



「ただいま」

「おかえり。行くか」

「うん」



カバンを手にしてローの横に並んで歩くと、支払いをしないまま店を出ようとしていた



「あれ?お会計は?」

「気にするな」

「え、ちょっと待って私払うよ!」



カバンからお財布を出してもローはすたすたと歩いて行ってしまう

早足で店を出てローの隣に並ぶと頭に手が乗せられた



「コンビニ行くぞ」

「もー…じゃあコンビニの買い物は私が払うからね」

「そいつはラッキーだな」

「食事代とは桁が違うでしょうよ…」



近場のコンビニに入ってお菓子とお茶をレジに持っていく

会計をしている間に商品がつめられたレジ袋を何も言わずローは自分の手に収めた



「サンキュ」

「いやだから食事代だしてもらってるんだからこれくらいしないと気が収まらないでしょ」

「そうかそうか。お前はかわいいな」

「ちょ!髪の毛ぐしゃぐしゃになる!」

「気にするな」

「気にするわ!」



わしゃわしゃと頭を撫でられて胸の奥が温かい気持ちで満たされる

どうしてこんなにローが好きになってしまったんだろう

数年前はここまで愛しいと思ったことはなかったのに



「ここだよー」

「3Fか」

「そうだね」



満喫のビルに到着してエレベーターに乗り込む

私は心に決めていた

ローを私に振り向かせる

今日逃したらもうきっと後はない



──チン



エレベーターの到着音と同時に開いた扉から一歩を踏み出す



今日の下着の色は……赤













─────────

(どれくらい入る?)

(3時間くらい?)


Back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -