思い出はでこぴんと共に





「ばーか」



バチンッ 「痛っ!」



放たれたデコピンは気持ちいいほどに私のおでこにクリーンヒット

ジンジンと痛みが響くそこを抑えているとふとデジャヴを感じた



あれは何年前だったか…























───────





「はー体育だるいよねー」

「私はすきだよ?体育」

「リオはあれでしょー先生目当て」

「私はもともとスポーツが好きなだけだよっ!」



気だるげに体操服を着る友達とは真逆に私は早く早くとシューズを持って手招きする

スポーツは好き

点を決めた時は嬉しいし、記録が伸びた時は「やった!」って思う



でも、最近はそれを言っても誰も信じてくれない



「お前らー早くストレッチ始めろー」



先月から教育実習で入ってきた新しい先生が、体育の授業を受け持つことになってからだ



「なんだリオ、ペアいねぇじゃねぇか」

「え!?あれっ?」

「おれに見惚れてっから取り残されたんだよ」

「見惚れてませんっ」

「いいからそこ足開いて座れ」



トラファルガー・ロー先生

容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群ときたこの完璧超人な先生

どうして体育の先生なのかほとほと疑問でしかない



周りの女子はこの先生に恋い焦がれていつもはサボる授業も体育だけは積極的に参加するようになったとか



私はもともと授業サボってなんかないし、ミーハーな女子とは一緒にされたくないと思っているけど…



「ほら、息吐け」

「はーーーーー」

「声は出さなくていいっつの」

「あははっ」



さりげなく、私も先生が好きだというのはお決まり過ぎだろうか



先生が来てから、今まで以上に体育の授業は頑張って参加するようになった

今月はバスケットボールの期間だから、積極的にボールを追いかけるしシュートも打つ

「やるじゃねぇか」って頭をくしゃっとされた時がすごく嬉しかったから

また、褒めてもらいたいその一心で走った



「リオいけー!がんばれー!」



チームメイトの声よりも



先生の私を見る視線のほうが何倍も力をくれる



パサッ



ドリブルをしてゴールの枠へボールを置くように手を離す

重力に従ってボールはゴールネットを揺らして地面に落ちた



「タイムアップ!」



ピーッと先生の吹く笛が試合終了を告げる

結果は私のチームの勝ち



コートの外へ足を向けた時



「リオ危ない!」

「え────  ドカッ ──」



後ろから声をかけられて振り向けば顔面は真っ暗

友達の姿は見えなかった



一瞬何が起きたかわからなくて気づいたら体は地面に倒れていて

顔面と体に感じる痛みのわけもわからなくて動けなかった



「カドミネ!!意識はあるか!?」



先生…?そんなに慌てるなんて珍しいね



「お前らは自主練してろ!3on3でもやっとけ!」



ふわりと抱き上げられる感覚があって、先生が走りだした時に初めて声をだすことができた



「先生…」

「カドミネ、大丈夫…じゃねぇか」

「私…」

「顔面でボールキャッチしてそのまま倒れたんだよ」

「あー…あはは…間抜けだなぁ私」

「全くだ」

「う、否定してくれたって…」



ガラリと扉を開けて…あぁ、腕ふさがってるから足で開けたのかな



「座ってろ。…ベッドのほうがいいか?」

「椅子で平気です」

「よし、意識ははっきりしてきたな」



椅子にかけてあった白衣をバサリと翻して羽織った先生

…なんで着る必要があるのかなぁ

それ、保険医の先生のだよね?



「気分だ」

「私何も言ってません」

「言ってそうな顔をしていた」

「私に背中向けてたじゃないですか」

「おれは背中にも目がある」

「じゃあ白衣で見えなくなりましたね」

「怪我人は静かにしてろ」

「言い始めたの先生ですよ」

「はい黙る。目…閉じろ」



棚からガチャガチャとくすりやら何やら取り出して先生は私の目の前に椅子を持ってきて腰掛けた



おでこと鼻にポンポンと消毒液が塗られて少ししみる

思わず眉間にしわを寄せると喉で笑う先生の声が聞こえた



「先生、痛いです」

「我慢しろ」

「先生笑ってる」

「痛みに耐える顔はいいな…」

「変態」

「否定はしねぇよ」

「おまわりさーんこっちでーす」

「治療中だ」



私もクスクス笑っていると顔に触れていたコットンは離れて絆創膏がペタリと貼られる。

そのすぐ後にスルリと頬に温かい何かを感じた



「もう目開けていいですか?」

「あぁいいぞ」



恐る恐る目を開けると至近距離に見えた先生の顔

ぱちくりとまばたきをして、そこから1ミリも動けなくなってしまった



「何フリーズしてんだ」

「いや、あの、先生、近いし、手…」

「触診だ」

「怪我したのはおでこと鼻です」



口だけはなんとかいうことを聞いてくれるのかしゃべることは出来ても動くことがかなわない現状

どうすればいいのかわからなくてただただ先生の目を見つめていると



「そんなに見るな。穴が空く」

「じゃあ、手を離してください」



スッと頬に添えられていた手が離れて、自分で言ったのに少し残念に思ってしまうのはわがままだろうか



「……そんな物欲しそうな顔をするな」

「っ…し、してません!」

「くくっ…目は口ほどに物をいうが、カドミネは目も口も物をよく言うな」



薬を片付ける先生の背中を見つめても何のダメージも与えられないけどこうして先生と二人で話すことができて私は幸せだ



付き合いたいなんてことは考えていない



でも、大勢いる女生徒の中で将来も私もことを覚えていてくれたら…

そんな淡い期待を抱いて



「おい」

「ぅわっ」



いつの間にか下を向いていた私の顔を先生の手がぐいっと持ち上げた

また、目があった



「ばーか」



バチンッ 「痛っ!」



放たれたデコピンは気持ちいいほどに私のおでこにクリーンヒット

意味がわからなくて半分涙目になりながら先生を睨むとそこにはとても楽しそうに笑う先生の顔



「???」

「暗い顔すんな。」

「え、してないですよそんな」

「……おれが教育実習が終わるころ」

「……?」

「お前は、卒業だろ」

「今2月で、先生の実習は…」

「2月末までだ」

「…つまり?」

「今聞きたいか、3月まで答えを待つか?」

「今!」

「少しは悩め」

「聞いたのは先生じゃん…」



先生の言いたいことが伝わらなくて首をかしげる

もう一度、頬に先生の手が添えられて優しく撫でられた



「カドミネが卒業したら…迎えに来てやるよ」

















─────────













「ふふっ」

「あ?どうした?」

「ううん、昔のことを思い出してた」

「デコピンでか」

「そ。体育授業で、顔面キャッチしたとき」

「あぁ…あの間抜け面は今でも覚えてる」



ラグの上で胡座をかくローの横でクッションを抱えながら座る私

ローとは同棲を初めて早2年

ーーーーーーー

卒業式の終わった後、私は一人校門を抜けるとそこには私服のロー先生がいた

卒業式の1週間前というなんとも微妙な時期に教育実習を終えたロー先生は泣き崩れる女生徒に見送られながら学校を後にする

その1週間後、卒業式の今日こうして私を迎えに来てくれた



「思えばあれはローなりの告白だったんだねぇ」

「鈍感なお前への最大の譲歩だ」



温かい陽の光を窓越しに浴びながらくすくす笑う私達

ふと卒業アルバムを取り出して、思い出話に花を咲かせるのは、数分後のこと











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