※学パロ
律儀にも、翌日、ジュード・マティスは赤いピンを返却しに来た。それも朝一番で。
どうせ没収された女子生徒も忘れているだろうものなのに、丁寧に頭まで下げちゃってまあ。
ところでその頭には、しかし未だに安っぽい赤が光っていた。
「それ、どうしたの」
「やっぱり前髪が落ちてこない方が便利だなと思って」
どうやら昨日の間に、前髪が邪魔にならない素晴らしさに気付いたらしい。
優等生の強い味方が赤いことについて言及はしなかった。普通に似合ってるし。きっとジュードはお洒落云々ではなく、俺が渡したのが赤だったから揃えただけだろうが。
「わざわざ赤を買ったのか?」
「あ、いえ、これはレイア…友達がくれたものなんです」
「なるほど」
この真面目なバンビちゃんが明朗快活なレイア・ロランドの友人と言うのに驚かないでもないが、とりあえず、レイアグッジョブ!
分厚いビン底眼鏡さえどうにかなればこの青少年は化けるに違いない。ちょっと見てみたい、かも知れない。
そんなぼんやりとした衝動に任せて眼鏡を取り上げると、あ、と弱々しい声があがった。
「先生、みっ見えないから返して…」
「うぉきっつ! おたく目悪すぎだろ」
「かけちゃダメです視力落ちますから!!」
眼鏡なんて生まれてこのかただて眼鏡しかかけたことのない俺に、ジュードくんのビン底はキツかった。レンズ越しの世界がぐにゃりと歪む。
ビン底を外して、あわあわと見えないながら眼鏡を取り返そうとするジュード少年を見る。
あ、見ちゃダメだったわ。
予想外に顔が熱くなるのを感じて、誤魔化すようにジュードの細い肩に腕を回した。
折れそうな細い体はぐらりと揺れて。
「先生?」
「うん、コンタクトはダメだな」
「え、」
こんな可愛いバンビを毎日拝むなんて、耐えられそうにない。
真面目な優等生で、俺とは真反対なイイコ。
その純粋さに近づきすぎないよう、すぐに眼鏡をかけ直した。