久々→竹で転生



見てごらん、あの星はベテルギウスと言ってね、俺たちが見ている光は今から六百四十年も前の光なのだよ。
ベランダから、見上げた濃色の空で眩いネオンと戦う星を指し示す。
すると隣で毛布を肩に引っ掛けた彼はほうと感嘆の声を上げた。と同時に、ぷかりと開いた口から紫煙みたいに零れた息が視界を遮った。

「六百四十年前はなに時代かわかる?」
「えー…あれだろ、ほら、鎌倉?」
「はっちゃんよく大学に入れたね」
「うっさいな!」

ちょっと惜しいけど、正解してほしかった。

「室町時代、だよ」
「へぇー」

そう言えばあったなそんな時代。なんて頬を掻く彼は知らない。それが「俺たちの」時代であることを。
今から六百四十年前、自分が俺に持て余すほどの想いを産み付けたことを彼は知らない。と言うか、覚えてない。
それとも、もうずっと昔の想いを現在まで持ち越している俺の方がおかしいのだろうか。

「久々知、寒くないか?」

なにも羽織っていない俺に毛布を貸してくれる、その優しさは変わらないというのに。
俺を「兵助」と呼んでくれないこと、向けられる眼差しがまだ2年目であること、傷んだ髪が短いこと。それらが辛い。
鉛を呑んだような、とか、胸が締め付けるような、とか。そう言う陳腐でありがちな表現しか出来ないのは俺の語彙力の問題ではなくて、それが事実だからであって。
母親が自発的に胎児に触れられないように。まして母親以外は胎児の存在を確認することすら出来ないように。
俺の体内に宿った想いに愚直な彼は気付きもしない。
これからも、きっと。

「ありがとう」

ベテルギウス。
冬始めの夜気で毛布は冷たい。
きっとこの想いは六百四十年前の光よりも長く生きて、やがて誰にも知られずに朽ちていくのだろうと思うと、胎児が腹を蹴るように、死にたくないと擦れた恋心が泣いた。


光を身
(来世に春を冀う、胎内にて。)


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素敵企画「糖衣錠はもういらない」様に提出せていただきました久々→竹で転生。

薄暗い話で申し訳ない…
転生して片方だけ覚えてるとか、二人とも覚えてないけど何か感じる、みたいなの大好きです。趣味です←

この度は素敵な企画に参加させてくださってありがとうございました!


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