「どう?」
「……美味い」
中身のなくなった小皿を受け取り、サンジはうんと頷いた。そして鍋の底をなめていた弱火を完全に消す。
温かい野菜スープの出来上がりだ。
きっと、冬島が近いせいか突き刺すような寒さで凍えた身体を芯から暖めてくれるだろうスープは、いつもならクルー全員の好みの味に分けるのだが、今日は少し薄味で統一してある。ゾロの好みに寄っているのだ。
それは別にサンジが恋人のゾロをひいきしているからではなく。もし料理に魂を込めているサンジがひいきなどすれば、ゾロの方が許さないだろう。
ただ、今日はサンジが味を確認出来ないだけだ。そこで味見役を任せるあたりやはり恋人をひいきしているような気がしないでもないが、その無意識下の判断はゾロにとっても許容範囲であるらしい。
「これで終わりか?」
「ああ。ありがとな」
一息ついてポケットから煙草を取り出すが、それは箱ごとゾロに奪われてしまった。サンジのアヒルのように尖る口。
「病人が煙草なんか吸うな」
「ちぇっ」
取り上げた煙草をポケットにしまうと、ゾロはサンジの手を引いてキッチンから引っ張り出した。
突然のことに戸惑うサンジをソファーに座らせて、その隣、少しだけ離れた位置にゾロ自身も腰かける。
微妙に開いた隙間に戸惑うサンジの脳がぐらりと傾いたかと思うと、突然のことに何の抵抗も出来なかった身体はゾロの膝へ倒れ込んでいた。意図せずして膝枕状態に。
「え……、あっ悪ぃ」
風邪をひいて弱っている今、ゾロの膝をかりてあまえたいのはやまやまだが、何の断りもなく急にこれは無いだろう。
サンジは慌てて飛び起きようとしたが、しかしそれは頭上で構えていた手に止められた。
「いいから寝てろ」
「…マジで?」
「ああ」
ぶっきらぼうにそう言うゾロはそっぽを向いてしまっていて顔がよく見えない、が、じわじわと首筋が赤くなっていくのがサンジにはよく見える。
不器用で固いこの男がこんなふうに照れるものだから、眺めているのがいつもと違うアングルだから、なんだかサンジも気恥ずかしくなって。この妙な雰囲気をどうにかしなければ。サンジはこちらもだんだん赤みを増していく頬を隠すように、日に焼けた額をベシベシと叩いてみた。
「テメェも熱があんのかマリモちゃん?」
「おれは病気なんかしねェよグル眉」
飛び出す悪態が愛しい。
ああ、風邪をひいて良かった、などとこっそりサンジが思ったのは実はゾロにも筒抜けで。
その代わり、夕飯のにおいに誘われた他のクルーがキッチンの外でお預けをくらっている、という事実だけは遥か彼方に飛び去ってしまっていた。
馬鹿だねと笑う自分が馬鹿だなんて知ってるよ。
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なんかこんな感じの文を昔も書いたような気がするのですがどうだっけ…
過去のとネタがかぶってたらすみません!
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