夜が迫っていた。
日没と同時に、実習は開始する。
敵の城に忍び込んで最上階までのぼりつめて、お殿様が大切にしまっている巻物を奪ってくる。ただそれだけ。六年生の授業にしては簡単すぎるくらいだ。
ただ、その城を警護する忍者や自分たちと同じく巻物を狙う忍者を掻い潜らなければならないと言うだけで。
自分たちは忍術学園の六年生だ。そのことに誇りを持っているし、自信もある。ただし、慢心はしない。
城壁に迫る森の中で、息を殺しながら、小平太は隣で待機する級友の手を握った。
汗でわずかに湿ったそこは、冷たい。
「長次、緊張してる」
ちらりと小平太の方を見た瞳は凪いだ水面のように静かで、それが逆に緊張を隠している証拠なのだと小平太は知っている。だってもう六年の付き合いになるのだから。
ばれていることを承知の上で、長次は手を握り返さないことで強がってみせた。
そんな嘘つきの、自分と大差ないガタイの体を小平太は強く抱き締める。長次はわずかに眉をひそめた。
鳶色の長い前髪に覆われた眉間に小平太は唇を落として。
「大丈夫だ。私たちだから」
自分の唇も冷たく震えていて、あまり上手に話せていなかったことを小平太は知らない。
だから長次はとてつもなく不機嫌そうに顔をしかめて影をおとして、小平太の背に腕を回す。
それを隠すように、夜の帳が空を暗く染めあげた。
弱虫毛虫
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彪様が素敵なお題を引いてくださいましたので、こへちょで理想のキス!
私が書くと素敵なお題も微妙になってしまうのは何なんですかね。
彪様のイメージに合っていたでしょうか…?
リクエストありがとうございました^^*
小平太は暗がりで抱きしめながら、皺に震えるようなつめたいキスをするでしょう。
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